住居をマンハッタンじゃなくてブルックリンにした理由のひとつが、近所にスタジオを借りたかったからなんだけど、なかなかちょうどいいのが見つからない。おとついはグリーンポイントにある月極スタジオの内見に行った。ひとことで言って牢獄。650ドル払って入る牢獄。もしくは即身仏になるために入るあれ。完全防音だから密室っぽさはある程度は覚悟してたんだけど、牢獄感が振り切っていたのと異臭がすごすぎて即ギブでした。

いくら地価の比較的安いブルックリンとはいえ、本気で音が出せる、つまりドラムが設置できるレベルで防音がなされているバンド向け貸しスタジオは、手が出ないほど高いかガチ牢獄かのどちらかになりがちで、そんでガチ防音を条件から外すと、いちばん豊富に物件が出てくるのがいわゆるコワーキングスペースの個室タイプなんだけど、これは自習室みたいなもんでリスニングレベルですら音出したら追い出されるから候補から除外する。

もうちょっと音に寛容そうなのがアーティストワークスペースみたいな名称のやつで、これはいわゆる美大系のアーティストに対してアトリエとして個室を貸し出してるやつ。ネットカフェみたいに壁だけ仕切られてて天井はつながってるのと、完全個室のとあって、完全個室のやつはドラムは無理だけどそこそこ音出しても平気みたい。彫刻とか彫金みたいな騒音が出るタイプのアーティストも許容しているわけなので。ただ生音録るときは近隣の騒音が飛び込んでくることを覚悟しないといけない。

いちばん気になっているのは、これは物件数自体が少なくてぜんぜん空室が見つからないんだけど、ポストプロダクションスペースみたいな名称で呼ばれてるやつで、要はミュージシャンじゃなくて映像系の人が編集室として使うための貸しスペース。これはバンドレベルの音量は出せないけどリスニングレベルは当然オッケーで、窓がある物件もあったりして防音のレベルがバンドスタジオよりはやや緩く、それゆえに牢獄感がだいぶマシな感じ。サンプル写真から見るに。でも空室ないね。

きのうは晩からまたツアーに出てしまうビッグユキと近所のおしゃカフェでハング。新譜聞かせてもらったけど前作よりさらにおれ好みで最高。おれはおれでやる気をもらった。帰りにロールカーテンを買おうと思って専門店に行ったら窓ふたつで12kとか言われたのでアホかよと憤慨。ちょっと取り付けが難しい形状なんだけど、帰宅後ちくちくネットで探していけそうなやつをオーダー。ふたつで3.5k。それでも高い気するけどー。

きょうはNY州が出してくれるidカードを作りにダウンタウンブルックリンへ。ダウンタウンのわちゃわちゃした感じ嫌いじゃないけど住むにはしんどそう。そのままレッドフックのIKEAまで足を伸ばして、ソファの実物に座ってくる。思ってたのと違うやつが感触良かったので行ってよかった。けどほしいモデルの在庫がなく最終的には無駄足に。どのエリアもチャリで流していて楽しくて飽きない。おれは子供の頃から世界を把握していくのにチャリを使うのが常なのだった。そういうやりくちは変わらないんだなーと思った。

書くって言ってみたものの、クレジットスコアのこと自体は、「アメリカ クレジットスコア」とかでググればもういくらでも出てくるんで各自そうしてみてください。



読んだ? んじゃそうしたクレジットスコア社会に実際に接してみてどうよ、って話だけど、端的に地獄だしいまここに現前するディストピアだよ。

もともとの個人信用情報をアルゴリズムでスコア化しようという考えは、合理的だし別に悪い技術じゃないと思う。でも人間というのはそれをそのまま受け取るようにはできていないし、そのあたり常に技術サイドの想像力のなさはおばかさんだと思う。現実にはクレジットスコアは、まさに人間の偏差値、新しい身分制度として一人歩きし始めていて、とうとう就職試験の判定にまで使われるようになった。

そしてクレジットスコアはそのストック型のアルゴリズムがゆえにアップサイドにドラスティックな変動は生じず、それはつまり身分制度を固定化することに寄与している。なにか病気や予期しづらいアクシデントのせいで支払いが滞り、いったんスコアが低くなってしまえば、スマホも買えずネット回線も契約できず、クルマも買えないし借金もさせてもらえない。まあそこまでオーバーには排除されないんだけど、でも近いことが起きる。そしたら巻き返すチャンスもだいぶ長いスパンで奪われたままになる。

アメリカ人の友達がいたらスマホを見せてもらうといい。クレジットスコアをセルフチェックするアプリが高確率で入っている。みんなその点数を少しでも上げるゲームに参加している。みんなもろもろの支払いが遅れないかビクビクしているけどその理由はスコアに響くからであって、倫理に駆動されてるわけじゃない。点数が上がったら社会から何らかの承認を受けたような小さな祝福にも似た気持ちになってガッツポーズしている。ただ信販会社が上客だと判じただけなのに。

当然だけど同様のことは中国でも進行しつつあって、アリペイがさらに人間偏差値的なパラメータを築いて大々的にやっているらしい。そして日本でも近い将来導入されると思う。あのおなじみ年次改革要望書に数年前に盛り込まれていたから。ろくでもねえ。ひとつだけ気に入っていることがあって、アメリカでクレジットスコアを自己チェックするサービスの最大手は、クレジットカルマという。とても皮肉が効いていて、アメリカ人やるな、と思わせられる瞬間である。

とにかく、くたくたです。それでも前回の引越しに較べれば楽にこなせてるのかもしれない。えーと振り返りっていきますと、まず引っ越し業者の話でした。日本の引っ越し屋って基本、積んで運んで降ろしてがワンセット、それにプラスでお任せパックみたいな梱包・荷解きサービスがあったりする。アメリカはどうかっていうと、まずお任せパックは今回調べた限りではありませんでした。もしかしたらすごい高級なところとかあるのかもしれない。

逆に日本にないのは安く済ませたい人向けの、分業スタイルの引っ越し業者なんだけど、これは「積んで」と「運んで」と「降ろして」がセパレートされている。つまり現住所での人足と、新住所での人足と、運送そのものが別の会社に頼めるっていう。特に面白いの運送そのもののところで、PODSっていうとこが最大手っぽいんだけど、依頼すると指定した日に家の前の道路にコンテナをどかーんと放置していくのね。路上駐車みたいに。初めて見るとギョッとするくらい異様な風景なんだけど。

そんで依頼主は決められた時間までにそのコンテナに荷物を積み込む。そこは地元の人足を雇ってもいいし、もちろん自分たちでやってもいい。そんでその時刻が過ぎるとトラックがやってきてコンテナをかっさらっていくわけ。そんで新住所の前の路上にまた、ズドーンって放置していく。依頼主はふたたび規定の時間までに、人足なり自分たちなりでコンテナの中身を降ろして運び入れて、終えたらコンテナ回収のトラックがやってきて、おしまい。これがいちばん安上がり。

ただ地元力仕事、コンテナ運送、新住所力仕事で3つの会社と契約を結ぶ手間がかかる。今回新居が決まらないことで追い詰められていたのもあって、ほんとはちょっとやってみたかったんだけどやっぱ楽させてください、ってことで、積み込みから運送、搬入までワンストップで引き受けてくれるところに頼んじゃった。屈強な男3人がやってきて、まあ日本の引っ越し業者ほどこまやかではないとはいえ、じゅうぶんにジェントルで見事な仕事っぷりでした。

そんで、新居でおなじみネット契約なんだけど、このアパートメントは2社から選ぶことができて、ところがより合理的なプランが選べたほうの会社がよー、申し込みによー、クレジットヒストリーが必要だって言ってきたわけだよ。もう入居時審査のずたぼろふたたびで心折れましたよ。折れたので、次はアメリカのクレヒスの話を書きたいと思います。ちなみにもう1社はすんなり申し込みできたのであと数日でネットつながりそう。

9月はつむじ風のようにひゅんと過ぎ去っていった。なにしてたかっつうと引っ越しの準備なんですが。とにかく次の物件が決まらなかった。単純に賃料水準が高止まりしてて条件と金額が折り合わなかったのがベースにあり、ニューヨークの賃貸の審査水準がボストンより厳しいのがひとつ、おれがクレジットスコアを持っていない(日本発行のクレジットカードを使い続けているため)のがひとつ、おれに定期収入がないのがひとつ、合わせ技で審査通らず、みたいな。

もちろん物件によっては楽勝通るところもあって、何が違うかというと建物の所有形態らしい。レントビルディングって呼ばれてる、一棟まるまるひとつの会社が持っててぜんぶ賃貸っていう、日本の普通の賃貸マンションみたいな形態がいちばんゆるくて、あとやっぱ規模が大きいとテナントひとつが有するリスクのパーセンテージが低いから、なおさらタワマンみたいのはほとんど楽勝。1年分前払いって言われたとこもあったけど、それだって別に損するわけじゃないし。

そんでややきついのはコンドって呼ばれてる分譲マンションの賃貸。いわゆる分譲賃貸やね。所有区分は部屋ごとに違うけど管理会社が賃貸管理してるっていう。でもいい感じのアパートメントはコンドが多くて、うちが決めたとこもコンドなんだけど、結局保証会社使わされることになった。家賃1ヶ月分。ドブに。でももう退去期限も迫ってたし戦ってる余裕なくて、泣く泣く呑んだ。1年分前払いするって言っても、プラス保証金6ヶ月積むって言ってもダメだった。クレジットスコアがあればまだ交渉できたように思うのだが。

ちなみにブローカーが言うには、タウンハウスみたいな個人所有の小規模賃貸がいちばん審査が厳しくて、大家との面接とか履歴書提示とかざらにあって、それはつまりひと部屋あたりの事故ったときのインパクトがでかいからどうしてもそうならざるをえないんだって。あとブルックリンは少ないらしいけどコープっていう、管理組合が建物の所有主になってるタイプのアパートメントがあって、それはたいてい賃貸に貸し出すこと自体禁止されていたり、貸出可能のケースでも書類とかくそめんどくさいから、まず無理のカテゴリに入れておいていいだろうって。

内見も、一度で決めるはずが決めかねてしまって、2度目でサインするはずが帰宅したらどうしても気になる物件が出てきて、結局1週間に3度もニューヨークに通うことになってしまった。バカまるだし。最初高速バスで通ってたんだけどだんだん疲労が蓄積してしまって、ほんとはアセラっていう新幹線が取れれば速いし疲れないしでいちばんいいんだけど切符が売り切れで、最後の往復は飛行機を使ってしまった。マイル様々。ただunitedなのでニューアーク発着、ブルックリンは遠くてやっぱり疲弊した。

けっきょく3度目の動機となった部屋は気に入らなくて、もう2度目で見た部屋に決めようと話してカフェでオンライン申し込みした直後に、通りかかったマンションが気になって「こういうのがいいんだよなー」なんて言ったらブローカーが飛び込みで聞いてくれて、そしたら内装工事前の募集出してない部屋があるから見る?ってことになり、工事前だからけっこう各部ズタボロだったんだけど全体的にはとても気に入ったので、つまり最後の最後に土壇場の偶然で決めたって話でした。

エリアは、みなさんミーハーすぎて笑い出すウィリアムズバーグです。高いかっつったら高いんだけどもちろんマンハッタンよりは安いし、フリーレントが付いて現状維持くらいのレベルにはおさまった。なんでかっていうとウィリアムズバーグの生命線といえる地下鉄Lトレインが、2019年の2ndクオーターつまり4月か5月から最低15ヶ月、たぶん延びて1年半、工事ですっかり完全に停止するのです。みんなLシャットダウンって呼んでるそれが決まっているので、不動産相場はちょっと弱含みになっているのだった。

生命線が止まってうちもたぶん不便しそうだけど、なんかそれもそれで面白いかなって。そんなこと言ってらんないくらい陸の孤島になりそうだけど、まあ、なんとかなるっしょ。ブルックリンはボストンでは見かけない漕がずとも走る電動自転車がびゅんびゅん飛び交っていて、あれ買ったら楽しいかも。引っ越し業者の話とかまたちょっと書きます。

卒業が確定してしばらくのあいだ気が抜けて呆けていましたが、17時間睡眠とかしてたらさすがに奥さんがぶち切れて目が覚めました。いまは毎日zillowというアメリカのSUUMOとにらめっこで、9月末での転出届を大家に出してしまったので、さすがにお尻に火が付いています。アメリカのアパートメントでやっかいなのが、そこそこ高額でもバスタブがないのと洗濯機がない物件がゴロゴロ存在すること。その割に食洗機の装備率はものすごく高い。

そもそも日本では冷蔵庫も洗濯機も電子レンジも食洗機も個人に帰属するものだけれど、アメリカでこれらは一般に物件に備え付けのものと捉えられていて、ホーム・アプライアンスという言葉のとおり設備という側面が強く、日本におけるコンロの位置付けを思い出してもらえばいい。もちろんテレビやオーディオは個人が持ち込むもので、これらはアプライアンスとは呼ばれずエレクトロニクスと呼ばれている気がする。でも掃除機は個人に帰属するけどアプライアンスだな。なんなんだ笑。

郊外に住まわれてるご一家にお招きいただいたのだが、庭のある一軒家で薪ストーブに自家菜園、ものすごく素敵な暮らしをしてらっしゃって、憧れるけど、あれは自分にはできないなーとしょんぼりしてしまった。そもそも自分は団地生まれのマンション暮らしで一軒家に住んだことがないし、虫や草をさわればすぐ痒くなってしまう。要は向いてないのだが、なにより連れて行ったジャリがその空間ではめちゃくちゃ元気になっていて、そのお宅の子供らも当然めちゃくちゃ元気で、つまりあれこそが生き物が元気になる暮らしなのだ。そうわかってるけどしてあげられないので、しょんぼりなのだった。

帰ってきてzillowでちまちましたガラス張りの部屋を検索していたら、もうなんだかバカバカしい気持ちになってきてしまって、パソコンを閉じてジャリの散歩に出た。お庭であれだけ駆け回っていたジャリが、街中だと歩くのを嫌がって立ち止まってしまう。たぶんこれから育つ我が子も野を転げ草をむしり泥をこねて遊びたいんだろうな。申し訳なくなって泣けてきてしまう。

木曜の夕方にgraduation specialistのAlielleから「あなたの単位が足りてるのは確認できた。システムに修正をかけるのでしばらく待ってて」という返事があって(彼女はめずらしくメールの返信が速いのでいくぶん気が楽)、金曜、週末といくどとなくチェックしてもやっぱり卒業に1単位足りませんというメッセージのままだったのだが、月曜の正午前に「卒業してるの確認できるから見てみて」というメールが来て、生徒のマイページ見たらようやく、ほんとにようやく卒業したことになってた。はー、最後までバタバタしちゃったな。おつかれさまでした。

卒業式も出ずじまいだったし、夏卒業の友達たちが「イエーおつかれー」って横でやってるときは卒業認定がおりるかおりないかでグジグジしてて、ようやく決まったところで画面が切り替わっただけ、っていう、カタルシスに乏しい卒業でした。今後ですが9月いっぱいはボストンに留まり新居探しなどに費やし、10月からNYCに越そうと思っています。あと近々に音源出せたらと。ボストンでの日々もどっかにまとめられたらと思うんですが、入学時に「留学日記うちから出しましょう」って声かけてくれた編集者さんが数人いたものの、もはや誰からも連絡がないので、たぶんみんなもう飽きたんだと思います笑。

お子がおれの子だけあってまんまとアトピー発症して、チルドレンズホスピタルのアレルギー科に行く。当然おれの話になる。むしろおれの話がメインになる。イタリアから来ているという研修医がなにやらメモを取っている。アレルギーテストの準備をしてくる、と言って診察室を出た瞬間、医者が研修医にボソッと「interesting」って言ったもんだから奥さんが吹き出した。チルドレンズホスピタルの採血フロアにはギターを提げたシンガーが待機していて、待合室から採血室まで歌いあやしながらついてきてくれる。いい仕事だな。

帰宅途中にberkleeの生徒ポータルを見ると、すべての成績が出揃っている。首席ではないものの成績優秀者には入りそうだ(そんなもんどうでもいいのだが)。さておき問題は卒業で、卒業判定がやはり下りていない。レギュレーションどおり96単位揃えたというのに、1単位足りないというメッセージが出たまんまである。予想してたとはいえ、うんざりした気持ちを引きずりながら、graduation specialistに「たすけて〜」的なメールを送る。このまま卒業判定が出なかったらどうしてくれよう、的なガックリ感に包まれながら寝る。