人を怒らせてしまった。不本意ながら。うまく書ける気がしないけど記録しておこうと思う。木曜のアーリンのセッションに初めて見かけるギターの人がいて、話し掛けた結果として、わりと険悪な感じになってしまった。というか、僕が険悪にしてしまった。だからこれは反省材料として書いている。

そのギターの人は年の頃、僕よりちょっと若そうなくらい、つまり中年に足を踏み入れていて、中韓日台のどれかにルーツがあるのだろうってルックス、たぶん両親とも東アジア系なのだろうなって感じの顔つきだった。中年でアジア系、ということで勝手に親近感を抱いて、友人のゲイブとしゃべっていたので安心感もあって、何の考えもなく話しかけた。

最初に僕が何て言ったかというと、ちょっと正確ではないけど「はじめまして。ここでアジア系に会えてハッピーだ、どこ出身?」みたいなことを言った。そしたらアジア系のアクセントがまったくない英語で「はじめまして。カリフォルニアの出身です」と返ってきた。その時点で彼の顔はすでに曇り始めてはいたのだけれど、気づいただけでうまく軌道修正できないまま、よくある感じで自分の名前を名乗った。

そしたら彼が名乗った名前がなんというか、明確に日本人風の名前だったんだよね。それで「あれー日本人だよね? 僕は東京出身で」と言ったら「違う」。「さっきも言ったけど僕はカリフォルニア生まれでアメリカ人です」と言われてしまった。割とピシャッと。

だもんで、ああ……いまこれ書いててほんと「よせばいいのに」以外の感想が浮かばないんだけど「そうだけど、君の名前は日本人の名前に聞こえるよ。両親が日本人でアメリカ生まれってこと?」と言ってしまった。そしたら「なんでそんなこと聞くの? さっきも言ったけど僕はカリフォルニアで生まれてアメリカ人として育って、4年前ニューヨークに引っ越してきて、それだけ。僕に何を言わせたいの?」と、もう明確に不機嫌な感じで返ってきた。

あー逆鱗に触れるとはこのことだな。と思いながら、「あーごめん、僕も妻も日本人なんだけどアメリカで生まれた息子がいて、彼を今後この国でどう育てていくかいつも考えてるから、アメリカ育ちのアジアンがどんなバックグラウンドを持っているのか興味があったんだよね、それで何度も聞いてしまったんだけど、失礼なことを言ったので謝る。ごめん」と言い訳めいたことを言って、シェイクハンドだけして、とにかくその場から離れた。

人種や国籍や出身の話は、言うまでもなくセンシティブだ。パブリックな場所で言及するのはエチケットに反するし、ルックスや名前からバックグラウンドを予断することはレイシストの誹りを受けても仕方がない。それはよく知ってる。ただ見るからに日本人の人が登場して日本人の名前が付いていると、そのタブーをすっ飛ばして同胞意識というか、日本人じゃーん、アメリカ育ちなの? どんなふうに過ごしてきたの教えてよ〜、みたいな会話をしたい欲望に支配されてしまった。

帰り道、彼のアジアンアクセントが皆無な英語を思い浮かべながら、人種どうこうって話以上に、彼のこれまでの人生と積み重ねてきたであろう努力に対して無神経なことを言ってしまったな、という気持ちに包まれて地下鉄を待っていた。それに彼の感じたイラつきは、まさにうちの息子が将来抱くかもしれないイラつきなのだ。そう思うと自分のやらかしにまた落ち込んできて、身体がプラットホームの床に沈み込んでいくのだった。