昼、用事があって珍しくロックフェラーセンター付近にでかける。東京でいえば銀座や日本橋方面に出かけるようなものなので、いつも場違いだな、縁がないな、という気持ちに軽く包まれながら歩き、用事を済ませ、特に他に用もないのでどこも寄らずに帰ってきたのだけれど、セントパトリック教会とセントバーソロミュー教会という超弩級の教会が2本おっ立っているので、あれのおかげですさんだ気分が少しよくなる。

いっとき教会の遠景ばかり写真に撮っていたことがある。日本のオーディナリーな住宅街に、ふと教会のクロスが覗いている景色。キリスト教の素養がある人間ではまったくないのだけれど、極東アジアの、取り立ててなんでもない地域にひょっこり教会があるという事実だけで、何か小さな救いを授けられたような、なんちゃって敬虔な、なにかに祈るような気持ちのコスプレというか、そういう不思議な気持ちになれるのがおもしろくて、コレクションしていた。

寒いよく晴れた日、そういうなんちゃって敬虔な気持ちになることがあって、そのときの感触を思い出すと、日本に帰りたい気持ちになったりもするのだけれど、実際はそれはただ過ぎた日々へのノスタルジーにすぎないので、地理的に移動したところで何かが片付くわけではまったくない。失われた日々はもうこない。死んだ犬は帰らないし暮らしてた女の子に会うことはもうない。いまは奥さんと仲良く過ごして、死の床でそれを一瞬思い出せたらそれがいいと思う。

何の話だったっけ、とにかく金にまつわる野暮用があってロックフェラーセンターまで繰り出して、用事の最中にメールチェックしたら修理に出していたMacBook Airができたから取りに来いって報せが入っていた。3週間もかかったうえに、ずーっと修理ステイタスがエラー表示のままだったのでたいへんに気を揉んだのだけれど、いちばんイラっとしたのは、あまりにノーレスポンスなのでおとついクレームの電話を入れたら、センターでほったかされてたことが発覚し、しかもその苦情が入ったら超速で修理がなされて帰ってきたことだ。3週間なんだったん。声を大きくしないと何ごとも一向に進まないのがこの国のストレスフルなところだと思う。

ナーセさんが暇しているみたいなので14丁目のApple Storeで落ち合う。スタートレックのクルーみたいな格好したスタッフに、修理に出していたMacBook取りに来た、と言うと、OKあのテーブルで座って待ってて、と言われたのだけれど、待てど暮らせど名前が呼ばれない。30分も放置されたので頭に来て「どーなってんの、待たせすぎだろ」と言うと、2分も経たずにMacBookが出てきた。一事が万事これだ。声を大きくしないと何ごとも一向に進まないのがこの国のストレスフルなところだと思う!

たまにアメリカ帰りの人が、なんでもかんでも大声で主張すんなやって感じでうざがられたりするけど、仕方ないんだよ、それやんないと何も進まないんだからそうなっちゃうんだよ。許して。さておきナーセさんがチャイナタウンを見たい、というので昨日カンタさんに教えてもらった、かつて存在したトンネルの痕跡を見に行くことに。

気が済んだところでEast Broadwayの駅まで歩いて、私はまた別の野暮用に向かっていったのだけれど、その話もくそトランプのご意向で例によって書けないのでおしまいにします。East Broadwayあたりはいまでもほんの少しガラが悪い感じがあっていい。あの辺にもっと詳しくなりたいな。自分の脳内地図ではマンハッタン最後の空白地帯という感じ。