朝5時半、ジャリの散歩中、道のど真ん中にデカい布ゴミが落ちている。と思ったら人で、遠くからでも聞こえるイビキを立てている。男だったので普通なら放っておくんだけど、高イビキが気になったのと、寝ている場所が十字路から近くて、直進車は気づくだろうけど曲がってきたクルマは気づかず轢いてしまいそうで、起こしてやることにする。ああメンドくせえ! 頭部に外傷はなし、と。呼びかけで、起きない。腕をつねって、あれ、無反応は困るなあ。悪いけど思いくそつねらせてもらう。ああ顔をしかめた。ビンタしますよ。はいビシビシ、と。起きましたか。手荒でゴメンなさいね。うちどこですか。ああそこのマンション。はい歩けますね。ほんの2、3年前にはこちらが道端に転がってビンタされたりしてたのだから、まあ何かの恩返しだということにしよう。

午前中、見知らぬ女性から、一風変わった電話が掛かってくる。この部屋が不動産屋のサイトで物件として出されているのを発見して、建物名をググったらこの日記に当たったらしく、ちょうどお茶会連絡用の電話番号が書いてあったので電話してみた、内見させてほしい、と言う。面白いなあインターネッ子は。明日はパーティでグシャグシャだろうから、今晩いらっしゃるなら構わない、と言って切る。夕方に森さんが、入れ替わりで石本が明日のための掃除を手伝いに来てくれて、床掃除がちょうど終わったところで呼び鈴が鳴った。やってきたのは想像していたよりかなりコンサバ寄りな、身ぎれいなカップルで(男性のほうは健男さんにメチャ似だったのでややびっくり)、お邪魔するお詫びとごあいさつに、といきなりワインをいただいてしまい苦笑い。

もろもろ手を入れた部屋なので、ここは湿気っぽいので除湿剤を、みたいなティップスまで合わせ、あちこち短所まで割と包み隠しなく説明して回ること20分弱。なんだか妙な気分になってきて(俺は何屋だ)愉快さすら感じたり。まあ彼らがこの物件に決めるかどうかは俺の知ったこっちゃないけど、でもこの、勇気に満ちた、ちょっとだけ厚かましい訪問に、俺はすごくすごく好感を抱いたし、何か希望のようなものすら感じた。だってさ、不動産屋すっ飛ばして内見、っていうのは実際のところすごくハードルが高くて、それが今回実現したのは不動産サイトとグーグルと俺の日記、という3つのツールが揃ったからなしえたわけ(あと彼らのちょっとした勇気)。そういう、かつて仲介業者によって囲い込まれていた情報がネットによって流出して、流通の経路が多様化していくようないいサンプルだなあ、って思った。

WWWがポピュラリティを獲得しつつあった96年頃、一部の経済学者たちの間でちょうど、インターネットによる流通革命! みたいなトピックが喧伝されたことがあって、そしてそれはスンマセン妄想でしたー、みたいな収束のしかたをしたわけだけれど、でも実は早合点で、コンシューマーレベルではもっとゆっくりしたペースで、じわっと具現化しつつあったわけだ(簡単に言えばリテラシーの向上とgoogleの登場を待たねばならなかった)。たとえば不動産屋を通さずに自分のアパートをヤフオクに出す大家が出現したり、かつては決して小売りされなかった建築部材なんかがネットで買えるようになってきたり、萌芽はそこここにある。前に書いたけど、この国の商売の大半はブローカー(=情報をせき止めることで価値を捏造する)商売なわけだから、この流動化は国体を変えてしまう可能性がほんとのほんとにある、と俺は確認したよ。