──カラキさん、うちの姉は自分が幸せだということに気づけないほど不幸な人です。ワタシは自分が不幸であることに気づけないほど幸せな人間です。あなたはどちらですか? うちの姉に似ている気がしませんか?

どうでしょう、変わりつつあるかもしれませんよ。この病気で行動が制限される、思うように仕事も趣味もできない、この状態を、僕はようやく受け入れつつあるかもしれません。

──そうですか。ところでアナタ、春お茶はナニお茶を買うですか? もうワタシ来週には獅峰に行って(発音はイテ)しまいますよ。

店を出て。カンさん、僕は思ったんだ。僕のような凡俗な人間は、人それぞれに与えられた砂時計が絶えずサラサラと流れ落ちていることを、知ろうともしない。気づくこともできない。でも病苦に悶え苦しんでいる最中には、ほんの一瞬だけれども、その流れ落ちる姿をかいま見ることができるような気がしてるんだ。どうせ治れば喉元野郎の常で忘れてしまうんだろうけど、でも、とにかく、そうなんだ。