MCの原稿をうっちゃって(土下座>K氏)なんとか12時にビデオが出来上がる。マシンG4にしたから快適かと思ったけどiMovieの機能も太ったみたいで前にiBookでやったときとほとんど変わらない鈍重さだった。風呂も入れず汚らしいまま、黒のスーツに着替えてdistrictの上のウェディングイタリアンへ。ガキが野放しだったのを除けば良い式だった。ビデオもウケた。今回の新郎は孝夫といって小学校2年からの仲で小中と部活が一緒だったのだが、この人には僕が一生かなわない才能がある。この人には「身の回りにあるものを無条件に良しとする」才覚があるのだ。それはもう、子供の頃の僕にとって、いや正直に言えば今でも、もっとも大きな羨望の対象だった。

たとえば部活(ブラバンなの・大苦笑)で僕は、「どうして君たちこれっぽっちしかできないのキー!」ってすぐイライラしちゃうんだけど、彼は「ここまでできるようになったんだスゴイ!」ってとこからスタートするわけ。僕らの年は都大会金賞というちょっとした賞を取ったのだけど、ほら卒業するときに色紙とかもらうじゃん。あれにね、俺のには「カラキセンパイの厳しい指導のおかげで金賞穫れました!」って書いてあって、孝夫のには「つらいときオータセンパイが励ましてくれたおかげで辞めずに続けられてよかったです!」って書いてあるわけ(笑)。ああこりゃかなわないなあって思ったよ。合唱コンクールとかでも一緒だよね。彼には音楽的素養以上にみんなをやる気にさせる才覚があった。

中学生になると、立川の子供ははっきり二つに分かれる。都心で服を買う派と、地元派だ。割合でいくと2:8くらいなのかな。とにかく僕は急進的な前者だった。立川なんてモッサくってダサくって鈍臭くてイモくてほんとイヤだった。電車に小一時間揺られれば、渋谷でも青山でも、雑誌に出てるようなナウでインな(笑)世界が待っていた。でも、渋谷にも青山にも、友達なんてひとりもいるわけもなくて、心細さだけが募った。立川にいれば普通にしていられるのに、渋谷じゃ自分はなんて田舎臭いんだって常に苛まれながらショッピングしなきゃならなかった。孝夫は結局、地元から一歩も出なかった。立川の高校に進んで、実家から大学に通い、いま、実家から100mくらいのところに新居を構えたばかりだ。親がいる、幼なじみがいる慣れ親しんだ土地を、奴は大切に思っていて、そしてこれからも暮らしていくわけだ。

まあとにかく、部のメンバーにせよ住んでる土地にせよ、付き合ってる女にせよ友達にせよ親にしろ、孝夫は無条件に(ここが大事だ)良いものと考えるところから始める。僕は真逆だ。いつも何かが気に食わなくって、それはどんなに状況が良くなったって変わらない。吉野家吉野家なりに気に食わないし、今半は今半なりに気に食わない。そういう人間だ。おかげで批評眼だけは育ったし、それが食い扶持にまでなったと言っていいだろう。美味いものだって上等な芸術だって今年のモードだって世界のしくみだって、彼の何十倍も知っていよう。けどそんなこととはまったく関係なく、手のうちにあるものを<無条件に・無批判に・ためらいなく>愛する彼には、一生かなわない。たぶん式中に俺が気にしたガキのドタバタだって、孝夫にとっては大事な親族の元気な姿、と映っていたんだと思う。すごいよ君は。結婚おめでとう。