テレビの話つづき。ロンブーのあれ、番組名なんつったっけ、ブラックメイル。ターゲットはくりぃむしちゅーの上田だったのだが、これが胸をかきむしらんばかりに恋愛初期の苦みと甘みを溶かし込んだ、凡百の恋愛ドラマなんて蹴散らすくらいの素晴らしいドキュメンタリーに仕上がっていた。以前より我が家で話題になっている即興放送作家としての淳の手腕は過去最高に冴え渡っており、それを引き出したのは、他ならぬ上田の盤石な晩生っぷりであろう。

簡単にあらすじを紹介すると、以前同企画でこてんぱんな目に遭ったクルトン有田が、コンビで自分だけ好感度が下がったのは我慢ならない、と上田を陥れることを淳に依頼する。しかし手練れた淳が再三にわたって刺客を送り込んでも、上田は一向に誘惑になびかない。ファンレター手渡し、キャバ嬢、合コンと失敗した淳は、とっておきの手段として、依頼主の有田にも伏せたまま、刺客をヘアメイクのアシスタントとして仕事場に紛れ込ませる。その身の上話を聞いているうちに上田は、誕生日を独りで過ごすのは寂しい、という彼女の誘いに乗ってしまうのだが。

まず断っておくが、あの番組がヤラセであるか否か、とかそういう類のコメントは一切どうでもいい。問題は、上田口説きのプロセスにおいて次々と提示される、怒濤のディテールなのである。まずメルカノに設定された、怖い師匠に叱られてばかりのドジな新米メイク、というキャラ。これを受けて彼女には薄ピンクのチェックの半袖ボタンダウンシャツと美容師ウェストポーチ、ストレッチ素材の短めストレートジーンズがあてがわれ、髪もなんともいえぬ野暮ったいゴムでまとめられる。このリアリティが、まず凄かった。スタイリストは気張りすぎである。そのそもメルカノのチョイスがまた素晴らしく、愛嬌はあるが派手でもなく、まったく今っぽさのないその顔の造形。やや野暮ったい骨盤。いい仕事だ。そして明かされる、三重県、という出身地も凄い。三重県! 俺はたまらず泣いたよ。東海から上京してきた女の子、というジャンルを心の中に持っているのは俺だけじゃないはずだ。(あとで調べたら設定じゃなくてほんとに三重出身なんでさらに悶えた。何やってんだ俺)

それを受けるかのごとく、今度は上田から、もの凄い、匂い、としか言えないテイストが提示される。普段はそれなりにストリートを意識した私服を着ているのに、キメの日にはリーバイスに白いジャストフィットのTシャツを着てくること。シルバーのバングルをしていること。プレゼントを買う余裕がなかったから、と言って花キューピッドをバーに配達するよう頼み、その届いた花が、彼女の年齢の本数分のバラであったこと。若き上田の部屋にはジェイムズ・ディーンのポスターと尾崎と長渕があったことは想像に難くない。そう思わせた瞬間にBGMで長渕が流される(各所の80年代特集で誰も尾崎に触れられないのに比べ、ロンドンハーツスタッフのなんと勇ましいことか)。ちなみに出会ったばかりの世間話のシーンでは、スウィング・アウト・シスターズのBreak Outが流れていた。俺は再びむせび泣いた。

その後番組は例によってメルカノの誘惑が始まり、感動的な晩生っぷりをアピールしつつ上田は術中にはまってしまうのだが、その際に淳から発せられる指令の数々も、いちいち甘酸っぱさ全開で、人の思春期マインドを煽りまくるものばかり。通常は男が狼になったところでインモラルということで懲罰が下されるのだが、この回ばかりはあまりの青臭さに番組全体が自己撞着を起こしてしまい、「このままにしとけば?」という坂下千里子の指摘に淳がしぶしぶ「いや、でもこの女の子は仕込みなんです。やらされてんです」と当然のことを言って反論しなければならないほど追いつめられてしまう。結果、苦渋の落としどころとして、マネージャーからの仕事の呼び出しを断ったらアウト、というルールが適用されるのだが、それが圧倒的に脆弱な規範であることは言うまでもない。それほどに上田が醸し出すもどかしさ、胸キュンぶりは目盛を振り切っていた。

以前からなぞらえトークで安定した人気を誇り(参照)蘊蓄王でマニア体質を全開させた上田の持つ、しっかり陰で勉強してます感を、恋愛下手な晩生として気持ちよく昇華させた台本はほんと賞賛に値する。そして先述したディテール群によって番組を魅力的に演出したスタッフの力量は、すでにフジを抜いたと僕は思っている。銭金がゴールデンに昇格し、スカイハイは映画化、TRICKの再開と、長い冬の時代を通過して、テレ朝はいま、ほんとうに勢いがある。これが六本木ヒルズ効果だとしたら、森ビルも、少しは良い仕事をしたといえるのではなかろうか。いちおうリンク(ちゃんと仕事してます!>クライアント諸氏)。TV板より・恋愛板より。