修了検定卒業検定とテレコで一日おきなため、今日は完全なオフ。そしてTさんの卒業検定だ。9時半に目覚め、朝食をとってから海へ。サイズが上がるとメロウで素敵すぎるここの海も、サイズがない日はメロウというよりダラダラだ。パワーのない波は浅瀬に乗り上げても波頭が立たないままで、最後の最後にだらしなくズドーンと崩れ落ちる、すなわちこれダンパー。一昨日痛い目に遭ったばかりだが、今日はサイズが小さいのでダンパー克服を目標に掲げ、えんえん巻かれたり叩きつけられたりを繰り返す。トライ&エラーのうちに、胸は張って張りすぎることはない、スタンドアップの際に手を付く位置をもっと後ろの腰寄りに、視線はなるたけ遠く、など、知識としては持っていたtipsがいかに有用かを痛感する。ダンパーな波はほんとシビアだ。ちょっとテイクオフが遅れたら最後、テールから持ち上げられ、きれいにボードごと前転、ドシャーンと落下to藻屑だ。

昼食のため宿舎へ戻ると、卒検を終えたTさんが荷物をまとめていて、ということはもちろん合格。おめでとうございます。そして今晩からこの宿舎に俺はひとりきりだ。いっしょにお昼を食べたあと、5月半ばには今度は大型を取りにふたたび戻ってくるというTさんを見送り、さてパソ教へ。それも10分足らずで済んでしまって、おとつい床にぶつけて欠いてしまったボードのリペア剤を買いに、スケボー漕ぎ漕ぎサーフショップへと向かう。ここのところ続いていた雨交じりのすっきりしない空も、この頃には雲の切れ間から陽射しが洩れるくらいには回復しており、湾曲したビーチを普段とは反対の漁港側から眺めて過ごす。なんでこんなに緑色かね、海。と思ってみたものの、あれだ、白いバスタブにお湯を張ると屈折率の違いから緑色に見えるのと同じなんだよね。あれの、拡大濃縮版、というところか。

洗濯物が貯まっていたので、Tさんが置いていってくれた洗剤で一気に洗う。洗い上がりまで少しだけ昼寝して、ベランダに干したところでふたたびウェットスーツに。波の案配はあまり変わらず、やっぱりダンパーだ。もういいかげん叩き潰されるのにも慣れてきたころ、結局まともに立てなかったのだが、何度か、かなり惜しい感じでテイクオフすることができた。それはもう滑り降りる、というよりはいったん空中に放り出されてから着水、というフリーフォール感覚で、しかもその最中に立ち上がってバランスをとっていなければならないのだから、一朝一夕でものにできるレベルのことじゃない。下に降りきるまで腰を落としたままで粘る感じだとうまくいくのだが、いかんせん膝のバネがまったく機能せず、下半身の柔軟性と筋力を鍛えなきゃ、と痛感した。ちなみにダンパーじゃない波を拾えれば、よいしょー、っと気持ちよくボトムターンでき、それを心の支えにして(笑)またしばらく巻きつ巻かれつ、というペース。<53回目>千倉、強南西サイドオフ、ヒザモモ、トロくてダンパー、朝2時間+夕2時間。

それにしても今日の夕焼けは凄まじかった。単純な輝度・彩度の高さ、全天のデザイン・レイアウト、経時変化の艶やかさにおいて、人生屈指の出来映えだったよ。5時頃はまだ雲度100って感じの薄曇りだったのね。それがさー、逆飛行機雲、とでも呼べばいいのだろうか、東向きのビーチの左前から右後ろ、つまり北東〜南西方向に天球がまっぷたつに切り広げられたように雲間が覗いて、その割れ目がだんだん、なんて言えばいいんだろう、ピスタチオの殻の中から外を眺めている感じまで開いてきて。うわ、なんかすげえことになってるってこの頃気づき始めたんだ。しばらくするとそれなりにこじあけられたくさびがたの雲間に、うろこ雲とかすじ雲みたいな、ちょっと高度の高い雲が散りばめられはじめて、そんでまあちょっと狂った話になってくるんだけど(笑)、それが、ああもうみんなゴメンね、もうね、ちょう写実的な女性器のフォルムに形をなしてるの。

一応言っとくけど、ここでなんだー欲求不満かー、とか歯のあるマンコ症候群の亜種かー、とか童貞コンプレックス(童貞に対する決して叶わない憧憬)かー、とか分析されても困るんだよ。いやだってもう、笑っちゃうくらい、たとえばあの雲ゾウさんみたいー、みたいなメルヒェン見立てとはまったく次元が違う、ああ、すごく良くできた心霊写真的といえばそう言えなくもないな。もうそんくらいそのもので、うーわー、ってのけぞった。あんまりにあんまりなので水面に大の字に浮いて見上げると(ウェット着てるから死海並み)、なんだか妙に愉快な気持ちになってきて(ここで勃起できるほど俺はたくましくはない)、ところでこれは女性器の中なのだろうか、外なのだろうか、外から見たフォルムだから外なんだろうがトポロジー的には天球に包まれているわけで、要するにクルンと靴下をひっくり返したみたいに内側と外側が逆転した子宮の中にいるんじゃないのかしら、という結論に落ち着いた。

そして西の空が色づきはじめるのに従って、天球の裂け目もどんどん幅広くなってきて、半天の薄雲はほんのりピンクみを帯び、層雲も厚みを増し、巻き雲は拡散しはじめ、ああもう書いちゃえ、空いっぱいの巨大な女性器が発情しはじめたように見えるのだからゲラゲラ笑い出してしまった。もうこうなると、波は見てなきゃならない乗れたら乗りたい空は見たい、でなかなか忙しい(笑)。波の稜線の部分が夏みかん色に染まり出し、火事を背負って逃げ場を探しているような気分だ。とうとう晴れ間のほうが割合で勝ってしまうまでに空の割れ目は開度を増し(出産だー・爆笑)、そして西の空が灼けた金属の色に染まる頃には、地・水平線付近を残して上空は晴れてしまった。そしてこっからがほんとの夕焼けショウだ。

振り返ると西にたなびく雲は、RGBじゃ数字を振れないぐらいの恐るべき発光体と化していて、あれが反射光とは到底信じられない。やや白みを帯びた、溶鉄のソルベ、なんてものがあるならそんな色。それを受けて海面が、ああもうなんてこった、そのオレンジ色がすでに暗く沈みかけた、重油の鏡のような海面に反射しててらてらと波立っている。で、なんで振り返ったかといえば波に乗るためでありまして、入ってきたウネリに持ち上げられ、水面近くにあった視線が一瞬高くなり、うおりゃーと漕げばそのオレンジの鏡面を切り分けてボードが進みはじめるわけだ。立ち上がる。明度の落ちた灰ががったパステルピンクの空を背景に、輪郭のみがオレンジに染まった波の壁。夕焼けなのにドーンパープルの泡の山。色彩に気を取られてバランスが怪しくなり、ズドーンと波間に倒れ込む。また空を仰ぐ。

晩はいよいよ一人きりでご飯。明日は修了検定なので早く寝よう。今日はほぼ一日じゅう海にいたのでデジカメはなし。日・月と帰ります。