海に行けないストレスは凄まじく(もう10日になる)、あらゆることが手につかず、仕事からも逃避して、一日じゅう寝て過ごした。朝の八幡様も行かなかった。酷い。学生気分か、と責められても何も言えない。こんなに寝たのもひさしぶりだ。こないだ寝込んでいたときよりベッドにいた時間が長い。床から起きあがる気力さえ失せ、これじゃただの鬱病じゃないか、と思ったところでインターフォンがピンポーン、宅急便でーす。何だ何だ? うわ、自分でもオーダーしたの忘れてた。スケボーが届いたよ(笑)。配達員は厳重に梱包された包みだけを玄関に残して去り、オーダーボタンを押したときの情熱も失せた状態で、唐突に俺とスケボーは対面することになったわけだ。

とりあえず梱包を解いて、部屋で乗ってみる(笑)。けっこうしなるもんだな。しかしこれは止まっていても何の用も足さなそうなので(これは哲学的な問題だ。静止したスケートボードが照らし出す、境遇が実存に与える、えーと)、着替えて外へ出ることにしよう。でも何を着ればいい?! 足下にあるのはスケボーだ。スケボーつったらあれだぞ、あのスケートボードだ。これはたいへんなものを買ってしまった。我がクローゼットにはXLのスウェットもぶっといパンツも待機してはいない。VANSのスニーカーも野球帽もない。髪の毛も伸び放題だし変装用のつけヒゲも切らしている。まずいことになってきた。ストーミーはもう閉店だ。とにかく夜が更けるのを待とう。街が寝静まれば、すべて解決するだろう。

問題をソファの上に放り投げたままもうひと寝入りして、目が覚めるともう日付は変わろうとしている。いい調子だ。もうクローゼットを漁るのはやめよう。いくら探しても30インチ以上のパンツは出てこないのだから。しかし結局ジーンズのまま外へ出たところで、再び俺は圧倒的な現実から逃れられはしなかった。ここは東京、富ヶ谷だ。地名に谷って文字が付くくらいだから、ああそうだ、平らな地面がないんだ。くそったれめ。ドアを出て左は下り坂、右は下り坂、おまけにまっすぐも急坂ときたもんだ。あれだけ勇気を振り絞って靴を履いたところで、俺はそのボードとやらを手に持って歩き出すことしかできなかったってわけさ。小脇に抱えられたスケボーがどれだけの社会的存在かってことも哲学的問題だ。深夜に平地を探してうろついている小男を見かけたら声をかけてくれ。

この文体飽きてきた。とりあえず代々木公園の駐車場で遊びました。めちゃくちゃ楽しくて3時間くらいすぐ過ぎちゃったよ。そんで調子に乗って近所をぐるっとクルージングしてみたんだけど、やっぱ坂ばっかりで上りは泣きそうだし下りはもっと泣きそうで、この辺にスケボー少年が少ない理由がほんの少しわかった気になった。もうちょっとうまくなったら下り坂でスピードを殺しながら下りたり、緩い上りならスラロームで加速しながら上れるようになるみたいだから、しばらく毎日の散歩とコンビニ、お茶屋くらいはスケボーで移動することにしよう。いずれにせよサーフィンと較べれば圧倒的に参入障壁が低くて、1日でそれなりに乗れた気になるので非常にお手軽だけど飽きるのも早そう、って感じ。それよりやっぱりどうしよう、着るもの変わっちゃいそうで怖い。

あと小倉優子モエーじゃねえだろ! って叱られたところで何を言われてんのかもわかんない輩が少なくないとか。嘆かわしい。あれは堕落だろ、どう考えても。