朝の時点でいわゆる2徹、になるのだが、これがなかなか堪えている。ハイの時期ももう過ぎた。あまりに慣れ親しんだ、眠気と眠れな気の往復運動。手がぎゅっと握れなくなり、腰から下の感覚が鈍くなり、宙に浮いているように感じる。隣の家でも外でもないすぐ近くの空間から聞こえてくる、男性アカペラの不定形で断片的なコーラス(幻聴は割と慣れっこだ。しかし加藤くんによれば世間で多く認められる幻聴は、多くが足音や扉のきしみなど、具体的な物質が音を立てているように聞こえるらしく、僕のように音楽ともいえなくもない楽音が聞こえてくる人は多くないらしい。この現象を利用すれば、僕は耳がつぶれても、徹夜を続けることで音楽らしきもの、には再会することができそうだ)。すべてが懐かしく、不快であり、その不快さを感じるのが心地良い。

朝の10時頃に、昨日いっぱいが締め切りだった仕事がすべて片づく。ついでに、火曜日に仕上げる予定の企画書も一本、勢いで片づける。勢いの割には出来が良い。その後、MCのKさんと来年の連載の企画を立てる。小さなことで笑っちゃうんだけど、僕のキャリアで初めて、一人称を「僕」で、その僕をイコール唐木元として書く年間連載をいただけた。単発では「僕」仕事ももろもろこなしてきたけど、連載の「僕」仕事は経験がないのでどう転ぶか心配。でも楽しみ。今日納車だったタバタが、早々にクルマを見せびらかしに来る。なかなか良い買い物だと思うよ。そしたらもう寝ればいいのだけれど、4時半に出なきゃならない用事があるので眠れない。仕方なしにメセンでチャットをしばいたり、電話越しでハルコに料理の手ほどきをしたりして過ごす。すこしだけうとうとしてしまった。あぶない。

5時から11時までのことは、僕にとってあまりに真剣であまりに大事なことなので、ここには書きません。あ、麻利子さんにひさしぶりにお会いしましたよ。相変わらず麗しくて、胸のうちがいとおしさでいっぱいになりました。11時にアンテナに荷物を取りに行き、しばし談笑。日高さんを見つけて、「♪チャッチャッチャラッチャチャ、ビーディー!」「♪チャチャッチャ、チャチャッチャ、ビーディー!」などと騒いで困らせる。いったん帰宅してレコードを揃え、着替えてから1時半頃、再びアンテナへ。ゲイのTちゃんが僕の顔を見るなり「ゲンくんどうした〜ん」って詰め寄ってくるので驚いた。別に深刻でも悲痛でもない、いつもと変わらない顔してたつもりなのに。「なんかあった〜ん」いや、大丈夫(笑)。でもTは僕の袖を引っ張って外へ連れ出し、近くにある自分の行きつけの店まで早足で引っ張っていく。

「ここはね、だいじょうぶな場所なんよ」。どう大丈夫なのか今もってもまったくわからないが(笑)、一見したところバーテンの3人がゲイ、レズ、ノンケの混成隊で、客も同様であることから、2丁目より差別構造の緩やかな(2丁目には2丁目の強烈な差別構造が存在する)店である、というくらいのことなのだろうか。Tがテッキーラを飲み干し、僕はDJがあるのでグレープフルーツジュース。なんかあったんなら全部話してすっきりしちゃいなさーい、みたいなことを言われる。Tには悪いけど、わかったようなわからないような話しかしない人たちだなあ、と思った。ましてや、真剣だったり大事だったりする話なんて、別に彼らが相手じゃなくても、話しやしないよ。やたらな人には、ね。

時間になったのでアンテナに戻り、スピン。ミキサーのモニタがすごくよくできた仕組みで、プレイも上々。フロアも上々。あとはまあ、馴染みの面々に囲まれて。女子美若い女の子にワナビーに関する割と諦念めいた話をされて、少し戸惑ったり。そんな老成めいたことなんてめったに口にするもんじゃありませんよ。ドイツ帰りの江口くんに、ひさびさに会った。パーティは5時半に跳ねて、おっつかれー、ってレコードバッグとジャリ抱えて帰ってきて、いま6時。タバタが家に迎えに来た。これからサーフィンに行ってきます、なのです。3徹なんて久しぶりすぎて、どのくらいの制御で身体を取り扱ったものだかちょっとばかり心許ない。いずれにせよ、長い一日だった。うまく言えないけど、一日一日が、すごくかけがえなくて、そんなの中高生の頃だけだとばかり思っていたこともあったんだけれど、ぜんぜんそんなことなくて、28になった今年今月の今日も、あまりにかけがえがないってことがわかった。