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たとえ話じゃなくて、行ってきました。折からの台風の影響で上級者大喜びの波の中、成人男性1ヶ月分の塩分を摂取したような気がする。何度も何度も波に呑まれて、巻かれて、どっちが海面だか底だかわかんなくなって、息が続かなくなって、そしてようやく顔を出せた! と息を吸ったら次の波が崩れてきあところでしこたま海水を飲む、という繰り返し。巻かれたときにエビ反ってしまい腰はゆわすし、腕は上がってパンパンだし、荒木くんが手取り足取り親切に教えてくれたことが、なにひとつうまくできなかった。そんでガツンと最高に楽しかった。懲りずにまた行きます。
ズタボロになって11時頃に帰宅、シャワーもそこそこにベッドに倒れ込む。目覚めると5時半で、もう待ち合わせの時間。山口くんがDynamite!という異種格闘技の大会のチケットをくれたのだった。そして、いま、そのことについて書こうか止めようか迷っている。せっかく1万何千円もするチケットを、他の誰かじゃなく僕にプレゼントしてくれたことにすごく感謝しているからなんだけど、けど、でも、書こうと思う。すげえつまんなくて、つまんないどころか、すげえイヤな大会だった。ゴメン。でもこれが僕の偽らざる気持ちだ。
試合自体は、ルールの妙もあって白熱したマッチが何本もあったし、お金を取るのに値するクオリティは保っていたと思う(桜庭はお粗末だったけど)。あとで物言いがついたけど、吉田がホイスを落とした瞬間には鳥肌さえ立った。ノゲイラが腕ひしぎ十字を決めたシーンも美しかった。けど、けど全部があまりに、あまりに、あまりにエンタテインメントで、ちーっとも楽しくなかった。僕はプロレス的な物語への執着や、見せ物/興行として格闘技をショウアップすることも、ご都合主義なルール設定も、けだし結構だと思っている。なのに、なぜ。
ネオンと水銀灯、火薬と電子回路で装飾された国立競技場のスタンド席からは、夜のオープンエアーにうねり巻くサーチライト、おもちゃみたいに見えるドコモや伊藤忠ビルなどおなじみのランドマークが一望でき、そんなスリバチの中心にリングがある。コロッセウム時代から変わらない、衆人環視下での殺し合いの21世紀東京バージョンだ。入場してすぐ始まったシウバの試合は、そんな祝祭性が新鮮なままエンジョイできた。でも、それ以降は、オーロラビジョンのテレビ的スウィッチングと、周囲のオーディエンスの遠慮とはしゃぎが入り交じったようなリアクション、冗長な入場シーン、ドンシャリの極みのPAから響くスラッシュメタルなどがどんどん僕の気分を陰鬱にさせた。
もっとも象徴的だったのは選手入場口の両脇に作られた「サクラスタンド」で、会場煽り要員として、ADの前説を受けて(笑)、フラッグやらプラカードやらをあらかじめ準備してもらった1000人ほどが、なんちゃらコールを会場に巻き起こすために待機しているのだ。テレビで聞けば満場のなんちゃらコールかもしれないが、会場では、ここと、その対向に作られた桜庭応援スタンド(希望すると席をトレードしてくれ、桜庭カラーのチューリップハットがもらえるのだ。その代わり猛烈に桜庭を応援しなければならない・笑)からコールが起こり、そしてなあなあで波及し、すぐに息絶え、ふたたびこの3カ所の声だけがむなしく響くのだ。なんだこれ。気持ち悪い。俺が潔癖症なのか?
このあまりに緩い発想の、しかしそれなりに機能している客席アジテーションと、もうひとつ、エンタテインメントのコアエンジンにナショナリズムやレイシズムを据えていること(そういうカードが組まれ、そういう演出が延々繰り返される)は、はっきりと生理的に耐え難かった。そんなことで盛り上がる客席も客席だし、仕組んだ奴らははっきりと憎い。したり顔で「エンタメってそんなもんだよね」なんて俺は言わない。許されないことだし、慣れてはいけないことだ。代理店の人間が考えるんだろうけど、彼らにモラルを云々するのも不毛なことなんだろうけど、でも、少なくとも俺はダメだ。つきあいきれない。試合への盛り上がりに水を差された。あんなモラルないと思わなかった。もう行かない。せっかく入場券くれたのに、ゴメン。
試合後外苑前まで歩いて、ロータスで(笑)軽く食事。帰りがけに宇川くんとひさしぶりに会った。彼には一度不義理を働いてしまった過去があるので合わせる顔がないところに、スタジオボイスの原稿を読まれてしまったらしく、なんとも恥ずかしい。海で痛めた腰をなんとかしようと中国治療院に行くつもりだったのだが、渋谷を通りすぎるときにどうしても荒木君に会いたくなり、Nonに寄る。昔日記に書いて各所から反響があったユーノスコスモの女の子がいて大ハッピー。すごく話が合うコーラ勤めのおっさんと、男の子のダメな部分について延々あげつらう。やっぱりこの店が好きだな、僕は。その後、阿部から電話がかかってきて、ふたたびサインへ。オンサンデーズの男の子にみんなしてたかる。もう酔いどれのところに、仕事の電話がかかってきて、着信の画面を見て凍り付く。12時までに送る原稿を完全に忘れていた。平謝りし、フルスロットルで帰宅、慌てて書き終わったところで床に突っ伏して寝てしまった。