28回目の誕生日でした。まあなんというか、例によってごたごたでグシャグシャの一日になり、自分はどこまで行っても自分だなあ、というか、すっきりすんなりなんて憧れても仕方ないなあ、と確認した感じです。概ねオッケーです。恐れ入ります。

朝、まだ路面が熱を持つ前に、日課である代々木八幡神社への散歩に出る。掃除のご夫婦にあいさつして参道を曲がると、様子がいつもと違い、社殿の前に15メートルほどの横断幕。文字は、世界不思議発見なんちゃらラリー、もちろんあれだ、サファリ服をまとったスーパーひとし君も描かれている。脚立、テレビクルーたち。なんだよこれ。僕はもう草野仁だけはほんとにご勘弁願いたい感じで、どうひねくり返してもエンジョイできる自信がない。許し難い、とさえ思っている。よくこういうときに「本人には恨みはないけど」みたいなエクスキューズを付ける人もいるけど、えーと、俺は恨むね。あいつ。

だって殺人犯そのものみたいな顔じゃんか。高校んときのイヤな物理教師に似てるだけとも言うけど。あの熱烈なボディビルダーがつるっとした手触りのネクタイをノーディンプルで結び、全世界のお茶の間から吸い上げた良識を湛えた笑顔で仁王立ちしている悪夢でも見ようものなら、無呼吸症候群で死ねる自身がある。似たような質感(髪油、シルク感の強いタイ、細い目、太ももの肉付き)に皇太子がいるけど、彼から受ける印象は正反対で、ヒロはじゅうぶんに福々しい。たぶんその質感を否応なく得てしまった人と、自ら選択した人の違いだろう。いずれにせよ、朝っぱらから、スーパーひとし君である。

カメラチェック中だったようなので、構わずお参りさせてもらう。いつもはなるべく依存心の少ない、同時になるべく言語化される前のイメージを吸い出したような祈りを心がけていて、要するに、やーうーどうもー、とか押忍ー、とかそういった類の感じで手を合わせる。願掛けは性に合わないと思っているので。それでも毎年誕生日にはそれなりに特別な感情を持って適当に欲深いことを神仏もしくは山か空に祈るのだが、今年はイメージの内容が意外とたくましくて自分でもびっくりした。我ながらちょっとだけ殊勝かも、とさえ思った。

帰宅して昼寝を取り、太田からの電話で目覚める。お見舞いに行こう、とのこと。誕生日に閉鎖病棟ツアーか(笑)。いいでしょう、行くよ。ジャリを預けて(記念日だ、許せ)渋谷へ。池袋で待ち合わせ、もうこの時点で山手線と池袋駅の混雑に心持ちがかなり怪しくなっていたんだけど、乗った急行が空いていたので少し持ち直す。オータがくれたハイチュウみたいなやつで歯の詰め物が取れてしまい、冷たいものが沁みる。

石神井公園はフヌケた駅前。10年後には1割残っていないだろう適当な商売やってる店ばっかりの中、やたら力の入った模型店があって驚嘆する。MIAとかFIXとか、さくらやホビー館より品揃えいいくらいなんじゃないの? バンザイバンダイのヤマトプラモデッドストックとか、HGデンドロ1万6000円、とか強力なアイテムも山盛り。その道では有名なんでしょうね。デジQでも買ってってやろうかと思ったが、モーター音が他の入院患者の気に障って刺されでもしたらたいへん、とか思って止める。古本屋とか寄りつつ、うだるような暑さの中、のたーっと商店街を一周してバスに乗り込む。

まあある程度想像は付いていたのだが、人口密集が中間的なゾーンの路線バスはけっこうエグい路幅の道を通るね。どう考えても生活道路でしょ! みたいな細道に外輪差を計算しながら突っ込んでいく姿に少しびびった。なんか永遠にこのバスでどっかに連れ去れていく気がするー、とか言いながら、東映の撮影所の脇を抜けてようやく目的のバス停へ。電線、畑、練馬大根でも作ってるのだろうか。空が広い。

プライバシーの問題もあるのでお見舞いの詳説は避ける。オセロやババ抜きをやって過ごした。思ったほどファンタジスタ大集結、って感じでもなくて、まあヤバげなムードは端々に孕んでいるものの、割とピースフルな病棟だった。軽度かつ長期に渡る入院患者が多い開放病棟の方がバッドヴァイブ出しまくりだった気がするので、あっちは薦められない印象。いずれにせよ以前に同様の施設を訪れた頃に比べて、大幅にクリーンさと採光に気が配られていると思った。

さて、帰りがまたたいへんだ。夜の分まで含めると、1カ月分の移動を今日1日でしたと思う。バスに乗って駅、急行に乗って池袋、乗り換えて新宿。誕生日だということで、後関と太田にビールどギョウザをおごってもらう。はは、いきなり旨くなった(笑)。ありがたいことです。渋谷へ戻って駐輪しっぱなしだった自転車を拾い、ノンの前を通ると声かけられて、ふたたびお酒をごちそうになる。山口くんとの待ち合わせがあるので早々に店を出て急いで帰宅。急いで飲んでチャリ漕いだのでこの時点でかなり酔いどれ。

帰宅して身支度を整えようか、という矢先に、森さんと石本来宅。お花とモージカル写真集を頂戴する。ありがとうございますありがとうございます。盛り上がってダディドゥデドダディを大声で歌って聞かせ、ハッピーサマーウェディングを踊ってみせる(めいわく)。酔って瀧坂に電話で自慢した覚えがあるのだが、何をわめいていたのかかなり不明瞭なのでこれもまためいわくをかけたと思う。スンマセン。

11時頃に森夫妻が帰り、僕は山口くんと横浜へ。レゲエ祭、ダンスホール初体験だ。遠かった。横浜。酒が入っていたこともあって2人して精神状態が不安定で、あらゆる世事がナイーブレーダーに引っかかってしまい、都会は地雷原、という気分に。まずは松濤公園で浴衣to花火、みたいなサマージャムを見かけるのだが、運悪くアマチュア演劇集団、みたいな方面の人々で、えーと、まあ、うん。

続いてストレート茶髪に台形のレイバン、ニットキャップ、レイカースのタンクトップにダボパン、出っ歯の乱杭歯で、学校へ行こう! の素人ラッパーコーナーにハードコアっていう劇団上がりみたいなのが出てくるんだけど、それみたいなギャングスタ気取りとぶつかり加減ですれ違ってしまい、続いて前を歩いてる女の子が、マックスマーラーのデュフュージョン、なんつったっけ、忘れたけどそれみたいな黒いノースリーブにコーチの小さなバッグを持っているのに、すごい貧相なキューティクルと歩き方でどうなってんだこりゃー、とか。

サファリパークを早足で渋谷駅へ駆け抜けて、東横線に乗るも大混雑。座れたのが運良かったと思ったら、すごい圧迫感で逃げ出したくなる。目の前に立っている男女の、女の方がとにかくすごくて、曙か狛犬みたいな顔に加藤紀子を意識した(これはモデルケースとしてはひと目でわかるくらいうまくいっているのだから賢明なチョイスだ)髪型、メイク。怒り肩の堅太りで、足を肩幅に開いてカッと立っているが、それにも増してお腹の出っ張りが欠食児童みたいに尋常じゃなく、白地にローラ・アシュレイみたい水色の花柄が飛び散ったフリル付きのスカートが、見たことない突っ張り方をしている。その上に白いエナメルの、全周に渡って鳩目が2段に打たれたベルトを斜めに引っかけているのだが、お腹のせいで腰に掛かる前におへそで止まってTシャツの裾に隠れてしまうため、ベルトが見えるような位置に30秒に一回くらい直す。直しつつ、自信満々で隣の男の子に意見を言う。もちろんトークの内容も男言葉を意識した命令口調混じりの自信満々っぷりで、しかも同業者だったりして、えーと、えーん。

救ってくれたのは、山口くんとの会話と、戸袋のところに立っていたモデル体型の娘さんだ。「山口くん、あれは天使だね」「ああ、うん、天使」「本を読んでいるね」「何読んでるんでしょうね」「うん、紙が焼けているから古書だ」「歴史小説とか落ち着きいいんじゃないですか、司馬とか、山田風太郎とか」「ああ、いいね。どうしたの?」「いや、えーと(昔つきあってたモデル体型の娘さんを思いだしたらしい)、次。」沈黙。「川だ! 風景が開けてるね」「いいですよね、日曜とかに日光浴に来ちゃったり」「(日曜河原→空中キャンプ→Sさん)次。」沈黙。「釣りはいいよな。サカナ!」「サカナ・・・次。」「うん、次。」

ブービートラップ発見、話題転換、というコントを60回くらい繰り返しつつ、途中、隣の車両が空いたので席を移動したりしているうちに、電車は反町のホームに滑り込んだ。駅名表示板に横浜、という字面が書いてあるのを発見してハイタッチ。なんとかかんとか、たどり着けそうだ。横浜は、遠かった。桜木町からタクシー。ベイホールは僕がジョージ(もちろんクリントン)に謁見した記念すべきハコで、あぶない刑事の撮影に使われそうな、いや確か実際に使われたはずだが、港町ならではのしみったれたヤサグレ感に満ちたファンタスティックな空間だ。中は、湿度が100%を超えていて、天井に、壁に結露した水滴が床を濡らす、そんな状態。

まずびっくりしたのがサウンドシステムっていうかダンスホールレゲエのスタイルで、構文が違う。グルーブで突き抜けさせてくれない。突き抜ける前に止めちゃうから。そのかわりフレッシュネスがキープされる。説明すると、イントロゲームみたいなもんで、ほとんど繋がない、というか1分くらいしか掛けない。でピギャギャって針滑らせて止めちゃって、あとパトワなトークトークちょっとしたら、また次の曲のイントロがかかる。

あの、新しい曲が聞こえてきたときの「キャーこの曲!」ってのあるじゃない。あれが延々繰り返されるわけだ。そんで、「そうそうこの曲いいよねー」ってハマりこみ始めた頃に、止めちゃう。慣れれば楽しい。だってあまりに正反対なんだもん、ハウスと。ハウスはハメて殺すがダンスホールは飛距離で殺す。連続性と間欠性、意味のデフレとインフレ、音数のインフレとデフレ、野外に似合う音楽と地下室に似合う音楽。やたらと体位を変えるセックスとずっと同じモーションのセックス。DJスタイルで言えば、ラジオDJ直系の、いわゆるマイクが立っているDJ、あれが極端にパンク化したものだ。

文法がわかればあとはエンジョイするだけ、なのだが、運悪くDJがタイプではなく、そそくさと外へ非難する。みんな腕が太くて日焼けしていて、僕なんか絡まれたら2秒で殺されそうだが、謝ったら許してくれそうなタイプばかりでもあるので平気だ(笑)。ちょっとイヤな風景を目にしてしまって、うわーとか思ってへたり込んでいたところで、再び天使に救われた。ミス・ジーンズまくり・イン横浜。「山口くん、あれは天使だね」「ああ、天使」「きょうはよく天使に救われる日だね」

黄色い更紗のバンダナにベージュのカットソー、ブーツカットジーンズを膝まで!まくり上げ、そこから延びたパーフェクトなふくらはぎの先に鬼塚タイガー。すべてがスムース。とにかくスムース、ノーけれん味でバランスグッド。破綻がないパッシブなチャームと、押しのあるアクティブなチャームが共存している実にレアなケースだ。「さて、フロア戻ろっか」。大御所であるらしいところのマイティなんちゃらとマイティジャムロック、この2組は実に心強かった。エンジョイさせてくれてサンキューだ。

もうそろそろ、って深い時間にラバーズが2曲かかって、お終い。そそくさと帰る。また遠いぞ、横浜からは。今にも雨がこぼれてきそうに水を吸い込んだ、沈んだブルーグレーのくもり空が気分を落ち着かせてくれる。アップ&ダウンもそろそろ鎮まってきた。家に帰って、ゆっくり眠りたい。天使の夢に感謝を捧げながら。