タモ起床、床掃除、リスト出し1本。新しいソファはウレタンにやや腰がなく、そのあたりがアメリカというかメキシコ的で気に入っているのだが、おかげで入眠は早いが目覚めると背中全体に鈍い感覚が半日残る、という典型的なソファ睡眠の弊害を大いに蒙っている。ベッド以外の場所で寝ることがもたらすお行儀の悪さは僕の生活にとって非常に大きな位置を占めていて、それは風呂でも机でも一緒なのだが、眠りの浅さといくらかの不快感がないと安心して眠れない、という逆説的な居心地の問題に突き当たる。どうもちゃんとベッドメイクされたベッドでは、心ゆくまで眠れない。心根がジャンクでトラッシュな証拠であろうか。悲しいもんだ。

シイナに来てもらって(連日レスキューすいません)ジャリを預け、シミケンと待ち合わせして新宿から埼京線。目の前のサンスクリーンを上げるタイミングを見計らって、久しぶりの電車を堪能する。赤羽くらいまでは飛び飛びに台地の先が顔を覗かせたりして普通に面白いのだが、そこから先のスーパーフラットな(笑)関東平野っぷりにはさらに驚かされる。スコーンと真っ平らなところに、断面が正方形の高層マンションが疎らかつ無軌道に分布している。僕はあの断面が正方形のマンションに住んだこともなければ立ち入ったこともないのだけれど、あれはどういう構造になっているのだろうか。

ひょっとして中庭が吹き抜けになっているとか? いや、あながち冗談じゃないかもしれない。でも板状、もしくは階段状のマンションと違って、方位的な不公平感をどうやって回避させているのかまったくわからない。北側の部屋を売るときには「晴れていれば赤城山が見えますよ」とでも言うのだろうか。いずれにせよ平野部に孤立して建つ高層マンションからの眺めを想像することは、プラネテス的な寂寥感から逃れようもない。風に乗るトンビが目の高さに飛び、夕飯の揚げ物をしつつ振り向いたら巨大な夕陽が見えたりでもするのだろうか。ギャグだな、ほとんど。

武蔵浦和で首都圏随一の荒くれ電車であるところの武蔵野線に乗り換える。クリーム色の床が懐かしい。ちなみに次点は京葉線で、いずれにせよ型落ちの通勤車両であんなぶっ飛ばして、よくパーツが脱落したり疲労を起こしたりしないな、と昔から感心する。ひょっとしてレーサーやジェット機よろしく、ワイヤーツイスターでボルトロックでもしているんだろうか。同じぶっ飛ばすんでも軌道の広い京急のジェントルぶりとは大違いで、鉄のレールの上を鉄の車輪付けた長っ細いハコが高速で滑っていく、というプリミティブな鉄道の姿がさらけ出されていることに、何か爽快な気分にすらなってくる。

東川口でまた乗り換え。試合開始2時間前だというのに、駅前は飲んだくれた白人でいっぱいだ。いいぞ(笑)。コンビニでビールを買うが、この時間でもうすでにビールの冷却が追いついていない。みんな氷のケースにビールを突っ込んでカンヅメの棚とか冷やかしつつ、冷えるのを待っている。気になったのはビール2:発泡酒8という棚構成で、なんだかなーと思って見ていると、ガイジンが「オイ、この安い方はやめとけ」みたいなことゆってるんでちょっと笑った。そりゃ水っぽいよねー。サッポロはエーデルピルスの一般売りをもう一度考えてもらえないだろうか。

地下鉄みたいのに乗って、ようやく浦和美薗に到着。ガイジンどもでごった返す駅構内。イングランド色が大半だけど、イングランドのユニを着ている人の中にアジア系がけっこう多い。アジア圏全体で人気なのな。旧宗主国つながり、とか? シミ兄の到着を待っている間にタバコを吸いたくなって、スタジアムと反対側のエレベーターに乗っていったん駅から出たのだが、ドアが開いた途端、陽光と静寂の中を用水路が流れる、恐ろしいまでにのどかな日本の田舎だったので目眩がしそうになる。

シミ兄と落ち合ってレッツゴー。人の波に乗ってけっこうな距離を歩かされる。さいたまスタジアムは田園に税金落としちゃった典型的な自治ハコモノなれど、すごく設計がいいので許したい気分になる。会場内ではノン・アルコールとの情報も流れていたので、入場する前にビールを買って芝生でごろり。ふはー。気持ちええわー。池に向かって大きくのびとかしてたらシミ兄に「あいつ(アタマ)大丈夫か?」と言われてたらしいが、のびぐらいしますよそりゃ。空広いしー。ピースピース。思わぬところでフェス気分だ(フェス嫌いなのに)。

今日のチケットはもろにイングランドサイド。というか、スタジアムの8割はイングランド色だし、鼓笛隊までいる始末で、要するにホームゲーム状態だ。席に着いたらちょうど練習の始まるところで、最前列まで駆け下りてみる。サッカー専用スタジアムって素晴らしいよ、最前列はフィールドから5メートルくらいで、、、って、ベッカムがボール取りに来た! キャー!! 抱いてーーー!!

ゲーム自体はそんなにいい試合にならなかったんだけど(イングランドはシステムがざっくりすぎで後半バテ過ぎ。スウェーデンはシステマチックだけどサッカーが小さくて地味。それが割とすんなり組み合っちゃった感じで予想外のほころびに欠けた)、でもとにかくベッカムはダントツにきれいだったよ。ひとりで長袖なんか着ちゃってさ、白いハイソックスで。モーションはいちいち雅やかだし、ニクいなもう〜。

そんで久しぶりにサッカーを、それも国際Aマッチっつうかワールドカッピンを(笑)見ちゃって思ったのは、別に神さまなんていないな、って当たり前のことだ。お前はマラドーナもペレもバッジョも見ずに何を言うか! って叱られそうだけど、いいじゃんベッカムで許してよ(笑)。あのねー、すごくびっくりしたんだけど、ボールも僕らが使ってるのと同じボールだし、フィールドのサイズもいっしょだったよ。そんで弾道はぜんっぜん違うけど、やっぱ足使って蹴ってた(笑)。普通に若い子たちが、めちゃくちゃハイレベルなスキルで、でも普通にオリャーとかって走ったり蹴っぽったりしてたよ。

さっきちらっと書いたけど、普段暮らしていると世界はたくさんの配慮という名のベールで覆われていて、プリミティブな姿に触れることはとても難しくなっちゃってると思う。電車は最先端のアブソーバーを搭載して冗談みたいにスムースだし、クルマはシルキーなサスペンションとソファみたいな座席に包まれて、それがどんなに異常な速度なのかわからないうちに、ちょっと踏めば120kmくらいすぐに出ちゃう。120kmで移動していてくつろげなんて、そんな無茶な話ないよ、普通(笑)。サッカーだって、国立で見たらフィールド外にトラックやなんやらがあって、しかもそこから最前列まで3mくらい高くなっていたりして、なんかその真ん中で進行してるゲームは雲の上で神様たちがやってるみたいだ。アリーナライブについては前に書いた。

あれ、これ、なんか「メディア感覚でリアリティ喪失の現代人」みたいな陳腐な話だなあ。でもいいや、続けるけど、さいたまスタジアムの距離感で見るワールドカップは、原っぱ感が満載だったよ。原っぱでタマ蹴ってウリャーって走る、僕らが多摩川っぺりとかでやってるサッカーとちゃんと地続きに世界のトップレベルがあるってことを実感できた。それがいちばん楽しかったことだな。ベッカムには悪いけど、国立で見る高校サッカーよりずっと僕らの世界に近いところで行われているできごとだって感じたよ。スタジアム前の芝生でビール飲んでワクワクしてるプロセスまで含めて。

何もこんな不況期にワールドカップなんかやらんでも、って思っていた僕だけど、今やってよかったんじゃないかな、と帰りの電車の中で思っていた。だってね、あーもうこの言葉使っちゃうけど、リアルはあんまりお金がかからずに楽しいはずんだ。道具を揃えなくてもワールドカップに連続したフィールドで球を蹴ることはできるし、安くてボロい中古車のほうが原動機で動くハコを操縦する喜びが大きい。ちっともラグジュアリーじゃないけどね。トイレが壊れたって、クラシアン呼ぶより直した方が面白い。直せるもんじゃない、触っちゃいけないんじゃないかって刷り込みがすごく強くて一瞬ひるむけど。

もうこの国の経済はほんとにどうにもならないから(大丈夫、大局的にはほんとに落ちぶれていくばかりだ。ムーディーズ正しすぎー。)、いやでもみんなガタピシ車に乗ったり自分でトイレ直したりしなくちゃならないことになっていくだろうけど、そのときエンジョイするのに今日ワールドカップで感じた原っぱ楽しい感はすごく支えになってくれる。21世紀の日本はアルゼンチンやメキシコみたいにデザインしていかなくちゃならないとしたら、このタイミングでワールドカップ誘致できたのはすごくラッキーだったと思う。でもなんか、貧しくなってくばかりの国を統治するための準備が着々と進んでるって予感もするけどな。これぞマスタープランって感じで(笑)。読み返すと今日の話は陳腐すぎー。