安部くんにふと話したら予想外に驚かれたんでびっくりしたんだけど、僕が小学生の時の趣味といったら間違いなく釣りと古城巡りだ。釣りも古城もポピュラーな趣味だと思ってたんですけど! 昆虫採集とかと同じくらい。いやマジで。ちょっとグーグってもサイト続出・・・で、なんかホッとしましたけど。釣りと城マインドは重要ですよ。どちらもすごく似ているんですけど。それはあとでお話しましょう。あとNastyDread古城さんは今なにやってるのだろう、とか。

僕が育った多摩には30いくつかの古城址が残っていて、僕は行ったことがあるのはそのうち20くらい、八王子城址から立川氏館まで大小あれど、それらはいずれもたいていはそれと気づかれないような小山、ないしは林だし、居館クラスだとドッヂボールのコートくらいの規模だ。たとえば姫路城や名古屋城みたいな天守閣ズバーンってタイプを期待して行くと、うらさびしい気持ちに襲われれることは間違いない。それでも、その場所に5分もいれば気づくだろう。その山はどこに向かって開けているのか。谷は、沢は、敵が攻めやすい方角は。

地形図があればもっといい。そして考える。どこに見晴し台を置けばいいのか、どこに土塁を築き、侵入者を食い止めるのか。家族を住ませるならどこか。兵の配置は。その類推こそが城巡りのコアで、こちらの妄想どおりに下った谷で空堀でも見つけた瞬間はそれこそエキサイティングだ。当時の僕のフェイバリットは、高月城という大石氏の小さな居城だった。隣の滝山城城址公園として整備されているのに対し、この小さな城は訪れる人も少なく、説明板のひとつもない。わかりやすい遺構はないけれど、それだけにアナロジーの余地が残されているというものだ。

僕が初めてそこを訪れたのは初秋だったけど、蛇行しながら細くなっていく林道を登り切って、突然開けた野原にススキやキキョウ、それにキスゲの仲間が咲き誇るさまは今でもはっきり思い出せる。そこが本丸跡だった。一部畑になっているようだが、かなり手入れは雑だ。まだ濃く茂る低木の枝越しに、秋川と多摩川の合流するあたりが見える。これなら狼煙の中継所にもなるだろう。ひとしきり地形を観察し目星を着けると、下りの林道の途中から、けもの道ぐらいの道へ逸れる。加住丘陵の突端方向を目指して山腹を回り込むと、途中に土塁と当時の石積みが露出してるのを見つける。あーなんか書いてるだけでときめくなあ。

キリがないんでいきなり結論行くけど、僕は、そしてみんなもそうだと思うけど、子供の頃からこういう類推to検証for正解ガッツポーズが好きで、それは要するに見えてないものを見ようとする心だと思う。何でもない小山に中世の人の息吹を見ようとするのはまさにそれだし、けっして見ることのできない水面下の様子にイメージを膨らませて、餌のバラケやハリスの長さ、タナを探る心も同様だ。似たような心に、発掘系のハード考古学(古城歩きはソフト考古学)やモリを持って素潜りする、いわゆるダイブ系の人々がいるけど、僕はそっちには行かなかった。なぜなら、それは新鮮さに欠けるからだ。

見えていないものを見るためには、イメージの力を借りるしかない、というのが僕の基本的なスタンスだ。水中カメラは素晴らしい技術だけれど、カメラが入ってしまった時点でその水面下は知りたかった水面下と異なってしまう。土に埋もれた遺跡を発掘するのは大きな喜びだけれど、それが地上に露出した瞬間、何か大きな変性が生じて、見たかったものではなくなってしまう。これは要するに闇を見る、という逆説と同じで、闇を見たければイメージの力でそこに釣り糸を垂れるしかない。闇に光を当てた瞬間、そこは闇ではなくなってしまうのだから。闇に分け入るのはやぶさかではないが、ライトを持っていくのは御免被りたい。

まったくもって雲をつかむような話で申し訳ないけれど、この世界の見えている部分は、闇に隠れて見えない部分に較べてあまりに小さい。そして闇を見るのはあまりに難しい。それでも豊穣な闇がある限り、僕らは釣り糸を垂れ続けるだろうし、イメージを駆使してアタリに耳を澄ますだろう。夜舟を漕ぎながら、釣り糸を垂れる。それが僕の幼少期に培った原始的な世界認識だと告白しておく。

そんで、なんで安部くんにそんな話をしたかというと、最近むやみに酷道萌え〜って話をしてたのがきっかけなんだな。おろし金コンクリートブロックで名高い421号線石榑峠や未舗装国道、157号線の温見峠も素晴らしいけど、ここはやはり酷道マニアの聖地と呼ばれる、418号線恵那〜八百津間にとどめを刺すだろう。なにしろ数十年に渡り完全通行止め、しかも数年後にはそのままダムの底に沈みゆく運命だという。誰が国道指定したのかわからない、ルパンの崖ライクな切り立ちっぷりとその荒れ加減はゾクゾクするほどの魅力を放っている。さらに地元住民の詳細なレポによると、この地域、一時は観光名所として栄えたこともあったようで、近くにはけもの道に挟まれた吊り橋や打ち捨てられた小料理屋と遊覧ボート乗り場(きれいな女将が一人で切り盛りしていた、というサブストーリーには性的興奮さえ覚える)まで残っているという。もうタマラン。ぜってーMTB積んで水没前に行く。今年じゅうに行く。軍艦島よりこっちが先。