きのう日記を書いたあとで椎名が来宅、青木宅を急襲し深夜の焼肉にて遅めの打ち上げ。リョウタさんがサッカーボールを持ってふらりと現れ、近くの校庭に忍び込み丑三つ時の2対2。椎名が予想外に動けるのでびっくりした。バテバテながらリョウタさんの股を抜いたのでご満悦。帰り、クルマに乗り込むときルーフに掛けた左手を引っ込める前にドアを閉められてしまい、指の根本からもろに挟みこむ。うわ、うわ。

普段よりテンションがかかったぶんガシッと閉まったロックのレバーを、ヒーとか笑いながらこじ開ける。こういう時ってやっぱ長く感じるんだなあ、とか思いながら。ゲラゲラ笑いながら外した手を振り、ちょこっとずつ動くか確かめる。なんだクソ、ぜんぜん大丈夫じゃんか(笑)。悪運が強いのか、ドアのパッキンに救われ事なきを得た。でもここ2、3年でいちばん痛かったよう。家に帰ってからどんどん腫れてきた。

今日は1日地味作業でかなりくたばっていたんだけど、椎名からの電話でとても元気が出た。パーティが終わってから、とても情け深い、優しい人に窘められて、もうぐしゃぐしゃになってたから。優しい人、という言葉をポジティブな意味で使うのは生まれて初めてかもしれない。そんな優しい人がいました。僕もステップアップするため倫社と現国学びたいです。


report020126 その2
荒木さんの1セット目は、大人びた静かなディープハウス。僕が持ってる中だとガイダンスとかが近いのかな。完全に落ち着きを取り戻していたのでもう安心だ。会場が押した分、自分の出番を飛ばすことでタイムテーブル通り進行することに決めた。PAさんに「このルーチーっての飛ばしてオンタイムで行きます」と伝え、少し音量のレベルが低いのでブースに。

ミキサーを見るとフェーダーが10のうち7と8の間になっていて、うわーそのスタイルだったかー、と思う。簡単に言うと、ある適正なレベルを引き出すとき、ミキサーの縦フェーダーで調整する細やかな人と、縦フェーダーはたいていフルテンでゲインとEQで調整する荒っぽい人がいて、荒木さんは前者、レベルチェックをした僕は後者だった。これはクロスフェーダーを多用する人とほとんど使わない人の棲み分けとけっこう被る気がするけどそれは余談。マスターをゆっくり上げて10時半までよろしく、と言い、地下に。

ソファも埋まってきたラウンジでは、顔見知りたちに開場が遅れたことを謝ったり与太を飛ばしたり。週末だからJの日本酒バーも開いていて、おいっす、とか言う。彼女のハスキーボイス(と、僕なんか箸にも棒にもかけてもらえそうな陽気さ)は好きだな、かなり。トークで使うプリントと手帳、時計代わりの携帯を小脇に抱えてちょこまかしてると、なんだかポーチ持って商談渡り歩くちんちくりんの不動産屋みたいで我ながら情けなくなってくる。吊り目で、名前はどうせユニオシかなんかだろチクショ。

椎名テメー、持ち場離れやがって、と思って近づいたら、浅野さんだった。首から肩にかけてのラインが激似でした。煉獄まで届く声でごめんなさい。でもオーラ消してるの(つうか付け消しできるの)ズルいですごめんなさい。予定より1時間近くも早めに来てくれたことに感謝しつつ、厨房でトークと映画のブリーフィング。肌の質感がきれいというか特殊で見惚れる。付き合ってもらってるんだからお酒の一杯でも出せばいいのに、気がきかねえ野郎だなあオイラはほんとに。

楽屋に戻ると入りが遅れて心配していた宇川さんが来ていて、同時に遅れの理由がわかる。うわーマジ大丈夫っすかその声。なのにタイムテーブルはずらさず5分で準備して下さい、とかめちゃくちゃなことを言ってしまう。さて、中原さんの時間だ。いったん食事に出られたので、機材不調のせいで帰ってこなかったらどうしよう(笑)とかって心配をよそに、定時にご帰還。荒木さんとキューのタイミングを相談して、中原さんと相方さん(頭蓋の造形が超ステキで物静か)は舞台へ。ヘア・スタイリスティックス、というかノイズの音響をエンジョイできる層は3割もいないだろう今日のフロア。さあて、最前列に陣取ってる浅野ギャルは覚悟してもらうよ。勝手に赤紙受理しといたからね。

ヘリの音。あの映画の幕開けにフェードインしてくるシンボリックなSEからスタート。そのパルスに次第にファズがかかっていき、どこまで音量が大きくなっていくんだろう、と思ってる頃にはもう轟音に包まれていた。容赦ない。轟音はいつ終わるともなく土砂降り続け、モッシュもダイブもないフロアには一種変てこな共感が漂い始める。最初のきょとんとした顔、目の前のスピーカーから吐き出される底知れぬ歪みが、余興なんかじゃなく逃げおおせないメインディッシュだと判明したときの小さな驚き。それがだんだん疑問を孕んだ諦めへと変性していくのがわかる。もっと叫んでくれ、中原くん。人は自分ではどうしようもない大きな力に出会ったとき、どんなリアクションをみせるんだろう。抗うな、受け入れろ、世界は繋がっている。陳腐にも僕はそう祈った。苦笑混じりで。

宇川さんのスイッチングは、間近で見るのは初めてだったけど、この人がビジュアルの世界で絶え間ないリスペクトを浴びる理由が一瞬にしてわかったほどの手練れたものだった。あれ、レバーと映像にほんの少しラグがあるんだね。その遅延を先取りする右手はもちろんサウンドのピークをも先取りしていて、要するに目でステージのモーションを見たり耳でbpmを確かめたりしてちゃもう遅いんだ。カラダの中に絶え間なく生まれ弾けるスイッチングポイントを漏らさずすくい上げるため、肩を丸めて前屈みになってる姿は、スタート板に着いたアスリートの背中そのものだった。さらに4台のビデオデッキにそれぞれ付いたモニタを、視界の隅の方で確認しては具合をみてやる。必要なら空いた左手で頭出ししなきゃならない。そのときにも目線はスクリーンに注がれているか下を向いてかがみ込んだままで、すべてそらでボタンに触れている。ジェナちゃんがたまに気遣って、緊張しっぱなしの背筋をさすってあげている。そうだった、この人声も出ないほどの風邪なんだった。ああ。

雨が降ったあとのダムみたいにどうどうと吐き出されていた音塊がふつっと途切れて、それがライブの終了だった。自分の力でコントロールできないものは、そのお終いも唐突にやってくる。歓声の中我に返って携帯を見ると、ヤベ、予定より20分も早い。PAさんに場つなぎのCDなんか渡してないし、荒木くんはもう食事に出ちゃってるはず。昔大久保のクラブでCDJが飛んだことがあった。DJは処置なし、って風に肩をすくめて誰かの対処を求めてたんだけど、そのときとても遊び慣れた人が誰より早く、誰にもはばからずただ目の前にあった盤をターンテーブルに乗せてかけ始めた。そのとき覚えたことを、僕はいまだに忠実に守ってる。謝りながらお客さんを掻き分け、ブースへ急いだ。歓声が終わる前に何でもいいから音を出さなきゃ。

ってわけでほんとに目の前にあった盤に針を落としたんだけど、なんと慌ててたんで電源が入ってないから回るわけない。スクラッチしちゃったよ(泣)。そんでスタートボタン押したら45回転の曲なのに33で回り始めちゃって、ここで45に慌てて戻したら最悪なので再びスクラッチ(号泣)。平然とした顔で(例によってバレバレ)45のボタンを押しスタート。ハウスのDJなのにめちゃくちゃアブストラクトなオープニングとなりました。しかもだよ、このあとのトークの打ち合わせがまだ終わってない! 選曲もクソもなく、針を落としてつないで楽屋へ。そんでそろそろ曲が終るってんでまたブースへ、を10分の間に2往復。空のブースを見た人、あれは下で猿が運転してるんですよ。

しかも訓ちゃんがまだ着いてない。うひゃー。開始を遅らせよう、という声もあったし僕もそう思ったけど、僕の判断で、義理を大いに欠くけど3人でスタートすることにした。終電難民を1人でも作りたくなかったし、このままの客入りじゃデートコースのとき大混乱になると思ったから。ステージの準備が整った。できるだけ事前の打ち合わせを少なくして、作り込まれてないトークになればいいなと思っていたのだけれど、その意図を大幅に越えて打ち合わせが足りないまま本番になだれ込むことに。ブースに戻って音を下げる。心のどこかで、この人たちが普段ドトールで(いや浅野さんとか行かないでしょうけど。でもドトールなの!)どんなおしゃべりしてるのか聞いてみたい、と思った。いつか酷い目に遭うだろうな。


パーティについてありがたいメールをあり得ない数いただいております。ほんとにありがとうございます。遅れるかもしれないですがひとつひとつお返事させていただければと存じます。そんぐらいしないとどうやらうまくいったらしいってことがわからないような人間です。今後ともどうぞよろしく。