例によって祭のあとというのはたいていそうであるように、魂抜けてました。いつもならいくら押すとはいえもう少しサクサク進むはずのアポ入れを1週間も伸ばしてしまい、もっとも懇意にしてもらっている編集Kさんとの関係にかなりの地割れをきたすほど。

その理由はふたつあって、要するに陰と陽なんだけど、ひとつはパーティが大盛況に終わったこと。みんな褒めてくれたし、楽しんでくれたと思う。僕も楽しんだ。まずはこっちから書こう。


report020126 その1
コンビニでお金を下ろし、吹きっさらしの山手通りでペッくんのクルマを待っていると、暮れきった空からちらほらと水滴が。あー、やっぱり。と思いつつプロジェクタとレコードをカルト教会の庇まで動かしていると、すぐに雨粒が軽く、白くなり出した。あー、やっぱり(笑)。やや遅れた到着に慌てつつ、すでに2人乗っている2シーターのスポーツカーにカラダをねじ込ませる。

当日になってようやく見つかった3アウトのビデオセレクタをレンタルしに並木橋に着いたときには、すぐに雨に戻った空がもう本降り。荷物をクルマに任せて先に会場へ向かってもらい、薄暗い映像プロダクションのドアを叩く。いま思うと、この時点で何か変なスイッチが入っていたような気がする。レンタルの担当者が異様にフレンドリーな対応で、この人が味方なんだからすべてうまく行くだろう、みたいな勝手な思い込みが生まれる。不安のよりしろに初対面しかもビジネスシーンの他人を使うのは止しなさい>自分。

ビルから駆け出した明治通りの内回りは、見渡す限りノー・トラフィック。対向車線は激込みなのに。タクシーがなかなか捕まらず、しかたなしに中央分離帯まで出て対向の空車を無理矢理Uターンさせる。いつも無茶いってゴメンなさいね、東京じゅうのタク運ちゃんたち。青木から携帯に連絡。かなり焦っている。ペもまだ着いていない様子だ。めちゃくちゃ平静なふりを装って(これやった相手にいつも言われるんだけど、10割方装ってるのがバレバレで、それで笑って落ち着きを取り戻すそうだ。僕も捨てたもんじゃない)、大丈夫、全部順調だから、と言う。いくら空いてるとはいえなかなか見上げた踏みっぷりの運ちゃんで、恵比寿まで5分とかからない。

会場に入るともうデートコースの面々がセッティングを始めている。さあ、第一声は大事だよゲンさん。おはようございます。今日はよろしくお願いします。土壇場にスタンダードを愛する心はどこかコメディタッチで、こういう場所にはふさわしいと思う。すぐにセッティングの状況を確認しつつ、スタッフ全員の顔を覗いて回る。結論。僕が余計なことしないでいればうまくいく。

タイムテーブルを配り、映像関係の準備を始める。プロジェクタとスクリーンの位置決めはみるくの富田さんに、配線は青木と椎名に、VJブースのセッティングは早めに入ってもらった荒木さんにお願いする。やや遅れて菊地さん到着。試写のエンディングと同時にデトコペの音出しとなる進行を説明する。この人、わかった、大丈夫、しか言わない。まったくもう(笑)。もちろんそのとおりなんだけどさ。

新曲のキュー出しを練習している横で、ステージのセッティングをどこまでフレキシブルにできるか考える。なにせ11人分の機材をハケずに、中原さんのライブとトークショウをやらなければいけない。ある程度下見をしてはいたものの、不動産の内見をしたことがある人なら全員わかると思うけど、空っぽの部屋と家具を置いた部屋では途方もない広さの伸縮が起こるものだ。ステージともなればなおさら。どうしたもんか。

予定より10分延長したデトコペのリハが佳境を迎える頃、中原さん到着。僕は初対面だったけど、完全にぼやきベース、なのに手は動いてセッティングが進んでいるこの人の周波数が、いきなり好きになってしまう。なんてチャーミングな、どす黒い(笑)。リハ途中で一部機材の故障が露見し、開場時間が押すことを確信する、より早く富田さんがキャッシャーに走り、10時開場と告知する旨指示が出される。あまりの早さと的確なさじ加減(たぶん押しは40分くらいだと彼も僕も踏んでいた)に、現場の人ってー、と泣きそうになる。

ちらっと外に出てみると、すでにみるく前には傘の群ができていて、下の奥歯のあたりに噛んで押し込みたい浮つきを覚える。この感じ!、とニヤリ笑い。走って戻り、修理代を嘆く中原さんに機材の代替セッティングを考えてもらって、あとはただ3つのフロアを変わりばんこにうろうろする。さぞみっともなかっただろうが、それでいい。今日はそういうチンケな男が主催するパーティなんだと伝わればいい。僕がリーダーシップらしきものを取れるとしたら、そういうやり方しかないんだ。

9時45分。中原さんのリハが終わり、フロアの明かりが落ちる。富田さんが下のフロアの点検から帰ってくる。1回だけうなづいて、すでにスタンバっていた荒木さんに音出しをお願いする。スタッフの子がキャッシャーに出ていって、ドアオープン。よしゃー、とか思うタイミングなんだけど、あれ、DJの音が妙に小さい? 左のターンテーブルのカートリッジが接点不良で片チャンしか出てませんでした。荒木さんとPAの男の子(彼はすごくよく気づいてくれて尊敬してる)にはちょこっと慌てさせちゃって悪かったけど、僕はすごくほっとした。進水の直後に小さな水漏れが見つかる。期待とか不安に包まれる間もなく、そのトラブルを取り除く作業に追われる。しかもそれは小さく、修復可能で、実際に完全に治った。期待や不安はぶり返すこともなく、航海が再び始まる。いいムードじゃんか。ね。


ここまで思い出したところで、陰のほうに触れて今日は寝ます。それは出演者の人との間で僕が約束を破ってしまったことで、それは僕の意地汚さ、薄汚さがもろに露呈したかたちで起こってしまった。このことで僕はある関係を完全に失ったと思う。失われた関係性は2度とは戻らないことくらいは知っている。台無しが好きって前に書いたけど、こういう形での台無しはチャームのかけらもなくて最悪だ。

もちろんその残骸を投げ捨てるんじゃなしにできる限りの修復はしたしこれからもするんだけど、でも僕は決定的な場面であり得ない過ちを犯したし、むしろそれが自分の本質であることを知らしめた。薄汚い自分をあらためて知って、これからどう振る舞っていけばいいのかなんてまだわからないけど、自分がいかに人でなしで疚しい心の持ち主かということは忘れないでおこうと思う。またピアスでも開けるべきタイミングなのかもしれない。ピアスは物忘れ喉元野郎に確かな効き目がある。