農繁期に入ります

いま日記を読み返したら8/29〜9/5なんだけど、この頃の僕はかなりやけっぱちな気分だったため(きのうきょうもそうだけど)「仕事しよう! 仕事に生きてやるんだビエーン」ってブスな総合職っぽい勢いで、いただいたオファーをぜんぶ受けてしまったのです。まーたタイミングを見計らったように仕事の依頼がまとまって来たんだ。というわけで11月までは休めそうもありません。まあいろいろ買って金欠ぎみだったし気も紛れるし酒量も減るだろうし痩せるだろうし、ちょうどいいくらいかもしれない。

きのう書き忘れたこと。PBCの出口寄りにある文房具店をのぞいた。SISLEYのレタートレイがほしくなるが、ぐっとがまん。あそこに寄るたび思い出すのが、僕が生まれた町のうらびれた百貨店、中武デパートの4階にあった文房具店のこと。──開口いっぱいに店内をアピールしている他の店とは違い、天井近くまであるパーティションが店を取り囲んでいる。1メートルに満たないその切れ目からのぞきこんだところで、黒く塗られた壁と控えめすぎる照明のおかげで、雑然としていること以外、店内の様子は一向にうかがい知れない。

その店の存在を知ってから店内に入るまで、ゆうに3年は要したと思う。僕がはじめてそこに足を踏み入れたのは、もう小学校も6年になってからのこと。店内は陳列棚がところ狭しと並び、そのいずれにもめまいを催すほどの密度でさまざまな商品が置かれていた。ふつうのトンボ鉛筆やユニの消しゴムもあったが、いわゆるファンシーグッズは完全に排除されており、全体に舶来品が多く目に付いた。ボストンの鉛筆削りやヘンケルのはさみ、パーカーやペリカンの万年筆を僕がはじめて目にしたのはこの店だったと思う(モンブランはお祝いの定番だったけど)。

RHODIAのメモパッドやコクヨじゃないリングノートも、天使が飛び出すグリーティングカードや、セピア色の、いま思えばいくらかエロティックな寓意が施されたポストカードも、ほかの文房具店では見かけることのないものだった。なかでも垂らしたロウにブラス製のスタンプでイニシャルをエンボスする封印セットは、工作マインドあふれる少年だった僕のいちばんのお気に入りとなった。

それらすべてと、たぶん埃が混じってできたうっとりするような匂いが、デパートじゅうに響くエレベーターミュージックも届かない店の奥まで迷い込んだ僕を、ねっとりと包み込む。カーミットセサミストリートのパペットが、すこしだけお子さま向けの親しみやすさを提供しているほかは、ほの暗くて陰気な、朽ちていくような店内。それは蛍光灯がすみずみまで薄っぺらに照らし出すデパートのなかで、明らかに異界めいた存在として当時の僕を虜にした。

あの店がいまでも変わらずあるのかは知らない。でも立川というドキュンなギャンブルシティにあって、あれだけの趣味性に富んだ店づくりを保った店主には、尊敬の念を抱かずにはいられない。それこそ凡百の「お気に入りのものたちに囲まれたわたしのお店」的雑貨屋を蹴散らす、僕にとってはじめてのミルハウザー的な空間だった。なんてことを5秒くらいの間、思い出した。思い出したんだよ!

さーコンテ仕上げなきゃ。Oさん遅くまでつきあわせてゴメンなさい。