我が家から距離にして80m、しかし一度も足を踏み入れたことのなかったレッドソックスの本拠地、グリーンモンスターことフェンウェイパークに始めて入場する。ポールマッカートニーが来るというのだから、こればかりは仕方があるまい。そして球場前の入場列には白人しかいない。ここまで白い会場を見たことがないってくらい真っ白。あと肥満の人がやたら目に付いた。この人たちは普段どこに暮らしているのだろうか。これが民(タミ)の姿なのだろうか。ポールは民の神なのだろうか。

開演は1時間押した。こっちに来てから1時間押しはあまりに普通なので驚きもしなくなった。DJが4つ打ちremixのJETをかけている。うとうとしていると、歓声、そしてあっさりポールが出てきた。A Hard Days Nightからスタート。始まってすぐ気づいたのだが、周囲があまりにのんべんだらりとしている。正確には、たぶん盛り上がっているのだが、リアクションもダンスも弱いの。公園みたい。もしくはグリーンステージの後ろのほうみたいな。老人だからかなw。でもこれがスタジアム級のロックにおける一般の観客なような気もする。つまり普通の人ってこと。

ポールもいい意味ですげえ適当だ。ファンタスティックオーディエンスありがとう、ジョンとジョージにありがとう、満月が出てるね、ボストンは好きだなあ。とか。まじ適当!最高峰で生き続けた人はすげえなー。いい湯加減だった。そしてほぼ全曲において曲が終わった直後に、いま終わった曲のノリを身体で表現する、というギャグなのかなんなのかわからない行為を執拗に続けていた。そのBPMがいつも完全に正確なので、湯加減のなかに空恐ろしいものを感じたのだった。わからない。本人のモチベーションがまったくわからない。

それにしても、とにかく、ご本人登場というのは恐ろしい。Hey Judeの♪Hey〜って言った瞬間にもう世界が完全に立ち現れてガッチガチに音楽をかたちづくってしまうのだ。♪Hey〜だけで何万人の脳内を強固にまとめあげてしまう、20世紀という特殊な世紀のイメージと産業の力。またそれを、レリビーからイエスタデイからサムシングから出し惜しみしないので、この人ちょっとイカレてるんじゃないかなーという気になってくる。007でアホみたいな火薬演出に花火がトッピングされ、おしまいはアビーロードメドレー。原曲の音像が全員インプットされてるシビアな現場なのに、それを再現してみせたハイレベルなPAにも驚かされた。

ほんとはアンコールでグレイトフル・デッドのボブ・ウィアーが出てきたりアメフト選手が出てきたりしてヘルタースケルターとかやったのだけれど、おれデッドって人生通算で15秒くらいしか聞いたことがないし、アメフト選手がはしゃいでるのとかクソどうでもいいので、記憶から消えてしまった。さてまとめとしていい話をしようと思うのだが、開演直後「ギター逆に持ってるのね、左利き?」と言った奥さんが感動して落涙するに至るのを見て、ポピュラーミュージックはとにかくすごいと思った。あとブライアン・レイはチビを気にしすぎだと思う。