5week Programというサマースクールの子たちのウェルカムパーティに、モータウンアンサンブルで出る日。結論から言うとロクでもない日になってしまった。まずリハに時間どおり行くんだけど、他のバンドのリハが始まり、一向に回ってこない。そもそも対バンがいるなんてことも初耳。他の子に「知ってた?」って聞いても「いや初耳。でもラリーはいつもそうだから。こういうのが嫌なら付き合わないほうがいい」って言われた。

本番が始まると、前の2バンドが押しまくって、押しまくってるのにラリーはいい調子で曲を伸ばしまくり、不安になってくる。楽屋のモニタからは会場だいぶ湧いているように見えたのだが、客席にいた奥さんが言うには、かなりダレたそうである。とにかく前の2バンドで30分押し、自分らの番が始まった。

おれは今日のステージで花形のメドレーを演奏することを約束されていたので、それと引き換えに、他の曲ではクラビネットを弾いたりタンバリンを叩いたり、バンドに貢献することに同意したのだった。そしたら本番中、残り2曲になったときに突然「押してるからメドレー飛ばすって」ってもうひとりのベーシストから耳打ちされて、え? は? と思ってる間に自分が弾かないほうの曲に突入し、終わってしまった。

おれがそのとき思ってたのは、これいつから仕組まれてたのかな、ってこと。どの段階で誰が決めたのかわからないけど、俺が伝えられたときにはもうバックバンドにはメドレー飛ばすことが周知されていて、結局おれはろくな出番もないまま。客席はワーワー盛り上がっていて、全員でライン作ってお辞儀したりしていたのだが、おれはもう不信感と不条理感の最中にいて、ねえ、もう1曲やろうよ、と誰かに言いたかったのだけれど、誰に言ったらいいのかもわからないまま舞台裏を右往左往していた。アンコールが起きるかな、起きたらいいな、と思ったのだけれど、客電が点いてしまってアンコールにはならなかった。

楽屋に戻るとみんな褒め称えあっているのだけど、ぜんぜんそんな気になれなくて1人で楽器を片付けていた。ラリーとDJがなんか話し合っていたので、メドレーやりたかった。なんで飛ばしたの。と訴えたが、8時半までに終わらせろって言われてたので仕方なかったんだよ、ゲンの演奏は素晴らしかったよ、とか適当なことを言われたので、もうほんと全員死ねっていう気分になって帰った。帰途についても風呂に入っても、やり場のない怒りで爪先まで満たされていたのだけれど、腹の中では自分の不甲斐なさにいちばん怒っていた。

あそこで、演奏し終えてアプローズに応えてるときに、俺は「誰に頼んだらメドレーやらせてくれるだろう」って考えていた。その甘さ。全員が時間調整するなら俺メインの曲を飛ばすって考えていたのだ、誰に頼むとかじゃないだろう。俺がすべきだったのは、あそこでハンナのマイクを借りて、客席に「Do you want one more song?」って訴えかければよかったのだ。会場はスタンディングオベーションだった。間違いなくラリーはもう1曲やらざるをえなくなっていただろう。力を借りるなら客に、だったのだ。

なんでそれをしなかったのか。できなかったのだろう。今日のことは一生忘れないと思う。誰のせいだ、とか、誰かに何とかしてほしい、とか思ってしまった、自分の甘さ。逆境にあって味方に付けられるのは音楽とオーディエンスだということ。ちらっとでも思ったことは実行に移さないと何も起きないまま終わってしまうということ。