お昼に楽しみにしていたアポイントメント。みなもの安永さんにご紹介いただいたパーカッション科のスティーブ先生に会いに行く。生徒と教授でありながら友人の友人でもある、という微妙な二面性をお互い確認しながら楽しくお話をした。たいへんな親日家であり、安永さんにたいへんに惚れ込んでいるのがわかる。イヤトレ4のスコット先生とは一緒に日本でクリニックツアーをやった仲だというので、スコット先生が突然日本語で話しかけけてくれるのも納得がいった。

ティーヴ先生はドラマッサージュという、要はドラムとマッサージを複合させた造語なのだが、そのプロジェクトに何年も取り組んでいて、プロパーのパーカッション奏者以外も巻き込んで何十人で演奏し、そのパーカッション音の渦に取り囲まれたなかで何らかの体験、メディテーション的というかヒーリング的な体験を得るという試みのようだ。安永さんの音楽が好きなことからもわかるのだが、スティーブ先生は西洋的音律、和声の枠組みから解放されることに興味が強いようで、アプローチこそ違えど、ここバークリーにはそういう先生が割と多い。ルールの総本山みたいなところで教授陣はルールからの逸脱に夢中という、そういうパラドキシカルな話はよくあるものだ。

そのあと留学生向けイングリッシュチューターのローラとランチミーティング。すごく親身になってくれるのだがわりと話し下手なタイプで、あれはどうなんだろう、チューターとして働いているのも、それを克服したいという気持ちが強いように見受けられた。専攻も途中でパーカッションからミュージックセラピーにシフトしていて、対人方面に興味というか強化したいことがあるのだろうなあ。若い人はいろいろ悩むんだろうなあ。おっさんは気楽で申し訳がないよ。

間髪入れずアレンジング1。校舎間を走って移動してばっかりで、あんまり効率的に詰め込むのも考えものだなと思った。ばったり会った水野さんとペイヴメントでお茶。ものすごく同じライブに居合わせていたことが発覚して笑ってしまった。19時からジョンクレイトンのクリニックがあるっぽいので行きたいのだが、バークリー内で情報が錯綜していて、今日と書いてあるページもあれば来週と書いてあるページもある。学科のFacebookを見ても「誰かほんとの情報を教えて!」という悲鳴に近い書きこみしか見つからない。

こういうときは行ってみるしかないもんで、無駄足覚悟で行ってみたらやっぱり来週に延期になっていたのだった。そして会場として予定されていたホールにはKINGというフィメールボーカルグループのポスターが貼られていて、黒人ばっかりがずらーっと並んでいたのだった。これは間違いなくアタリのにおいがする。最後尾で並んでいると、どう聞いても好みの音像がサウンドチェックされている。

女性3人組でツインボーカル、一人はカラオケ流しながらキーボードとコーラスなんだけど、ずっとモーグでシンセベース手弾き。それがめちゃくちゃいい音、めちゃくちゃ上手い。曲調は、割とオーディナリーなリズムフォームに凝ってる和声、という趣向だった。あとで調べたらボーカルの片方がバークリー卒業生で、その双子の妹がシンベの子なんだって。てっきりシンベの子が卒業生かと思った。そしてあとで柳樂っちに言われて、グラスパーのブラックレイディオでfeat.されていた人たちだと気がついた。

会場はおれとヒスパニック系ふたりを除いて全員黒人。そしていいノリ、いいダンス、いいレスポンス(難易度の高いコードプログレッションが提示されるとヒューヒューすんごいの。そのあたり音大生だなあ)。なにより自分の耳と身体にびったしフィットする。やっぱりおれは子供の頃からこういう音楽を聞いて育ってきたから、ものすごいホーム感がある。肯定感がある。ここのところジャズ漬けで、楽器も譜面通り弾くことに腐心していて、それが難しくてへこんでたから、ものすごく自分を取り戻せた感覚があった。

そうだった、自分はそもそもグラスパーに触発されてここに至ったのだった。それはつまり、ジャズミュージシャンがネオソウルやR&Bを演奏するというムーブメントにノックアウトされたからであって、そのとき得られる、ソウル直球の人が奏でるのとはふた味くらい違うキラキラした音使い、気の利いたプログレッションを真似したくて、ジャズのイディオムを身につけたいというのがモチベーションだったのだ。そしてその教養を身につけた上で、こういうアーバンでソウルフルな音楽を奏でたい、それがそもそもの動機だった。

ぜんぜん関係ないけど、アーバンというと洋モクのCMのような情景を思い浮かべるだろうけど、どうもこちらでは感じが違う。確かに「都会の」とか「都会的な」という意味が下敷きなのだが、実際のところはほぼ「黒人の」という意味に使われている。たとえばソルフェージュの時間に先生が「ドミファフィソー」とかやってる最中に突然「Yo! YoYoYoYo!」って言い始めて(ラッパーのジェスチャーつきで)、「ディスイズ、アーバンソルフェージュ」っていうギャグを飛ばすのだった。

そしてまた別の話として、黒人の友達を無理してでも作らないといけないな、と思った。来てみてわかったのだが、友達になるのがイージーな順に、同じ国のひと、非英語圏の留学生、英語圏の留学生、非黒人のアメリカ人、黒人のアメリカ人と順列づけることができるように思う。言葉と人種とさまざまな文化的要因がエフェクトして、アフロアメリカンと友達になるのがいちばん難易度高いんだよね。彼らは彼らで固まりがちだし。でもおれが好きな音楽は基本的には彼らのなかにあるのだから、彼らのコミュニティに突っ込んでかないことには始まらない。手始めにちょっと探りを入れて、学内で彼らがたまり場にしている場所を見つけたので、あそこらへんうろちょろしてみようと思う。