引っ越してから3ヶ月、ようやく新しい地図が頭のなかに醸成されてきた。ジャリを迎えてから13年と半分のあいだ、山手線・甲州街道・環七・246で囲まれた平行四辺形のなかをぐるぐるぐるぐると歩き、歩き、かなりの路地まで歩き潰してやった。正直、飽きが来ていた感は否めない。それでエイヤと246を渡って、その南に広がる土地へと新鮮さを求めにやってきたのだった。

これが俗にいう南進である(嘘はたいがいに)。そしたらもう、まずもって下馬ちゅうのが広大で、しばらくのあいだ実に手を焼いていた。第一に頼りになる通りが野沢通りと三宿通りくらいしかなくて、あとの下馬通りだの明薬通りだのが走っているのだがいずれも水平垂直なものはひとつもなく、方位感覚がジャミングされて使い物にならない。路地に至っては野沢のあたりなぞ行き止まり銀座である。

そしてまた、平坦。蛇崩川沿いにアップダウンがあるのだが、それにしても北沢や上原の陰影とは比ぶべきもなく、川の南北にはヌルっとした住宅街が茫漠と広がり続ける。これが五本木まで続く。自分がどこにいるのか、普段でさえよくわかっていないのに、さっぱりロストしてわからなくなる。

それでも隣接した地域で長く暮らしていると勝手のわかっているエリアというのが散在するもので、じゃがたらアケミの看板があるフジヤマレコード、五本木の葦毛塚や世田谷観音、みたいな局所的に見覚えのあるスポットを、歩いて面で繋いでいく作業にいそしんでいくことになる。そしてこれが、実に楽しい。ここを出るとあそこにつながるのか、というプリミティブな発見のよろこびが容易く手に入るのだ。

そんなわけで最近どうしてる、と訊かれてもたいした返答はできないのだが、身も蓋もなく言ってしまえば、山手通り、246、自由通り、駒沢通りで囲われたエリアを、妙に興奮しながら早足で歩き回っている。ちょうど暮らしながら旅をしているようで、地味は地味なりにエキサイティングな日々を送っている。ドラッグの要らない人生でよかった。