昼近く、家を出ようとドアを開けると、表が少し騒がしい。せーの、ヨッ、ホッと声が聞こえる。裏の古マンションで引っ越しか何かを運び出しているようだ。庭木の枝ごしに覗き込むと、内階段を通らなかったのだろう、タンスとも長持ともつかない箱を、大人が5、6人がかりで非常階段から下ろしていた。棺だった。

運んでる人の半分は喪服で、半分は普段着だった。誰も悲痛な顔はしていなくて、むしろ晴れやかに見えた。その時間だけ、梅雨の合間にしてはカラッと気持ちよく晴れていたせいもあるかもしれない。

ひとり、突っかけにノーメイクの女の子が、手を貸すでもなくひとつ上の階の手すりから身を乗り出して眺めていた。棺が難所をやり過ごして2階くらいまで降りたところで、女の子は飽きたのか踊り場に戻り、一瞬だけ空を見上げ、遅れて長い髪が風に舞った。