TJNYのライブがなんとか終わって、イベントご来場ありがとうございましたという話を書くつもりだったんですが(先に略式で。ありがとうございました! サークルモッシュってステージから見るの初めてで笑っちゃったよ)、

きょう待ち時間にベーシスト3人で話をすることがあって、そんなふうにベーシストが揃って内向きな話をすることが滅多にないからやたら楽しくて終わらないでほしい時間だったと言ってもいいくらいだったんだけど、その他愛もない会話を通してはっきりと認識したことがあるので書き留めておきたい。それはベースって楽器、あれは一体なんなんでしょうね、という問いだ。いまだによくわからない(ベースじゃなくてベイスだろ、という話題もあるのですが、それは今日は措いておいてw)。

あの楽器を指してエレキベースと言う人がいて、まあそれはたぶんエレクトリック・ベースのことだとして、一方でベースギターと言う人がいる。前者は電化されたアコースティックベース、という意味だろう。後者は低音を奏するギター、という意味だろう。つまりいまベースと呼ばれてるあの楽器には、ギター(リュート属)由来とコントラバスヴィオール属とヴァイオリン属のハイブリッド)由来のふたつのアプローチが混濁しているということだ。

いま流通しているエレクトリック・ベースのルーツは、51年のフェンダーベースということになっている。のちにテレキャスベースと呼ばれたりオリジナル・プレシジョン・ベースと呼ばれたりするアレだ。51年は触ったこともないけど、50年代半ばのテレキャスベースは弾いたことがある。そして、もうそのルーツの時点で、ふたつのアプローチの折衷的な楽器になっていることが、触ってみればすぐにわかる。あれは、用途としてはコントラバスの代用として開発されたものだ。

しかし構造としては、エレクトリックギターの構造を借用して低音化したもので、バス・クラリネットクラリネットの意匠を持っているように、テレキャスターの意匠を全面的に引き継いでいる。この誕生時のねじれ、もしくは「引き裂かれ」が、60年以上経ってもいまだにポピュラー音楽の低音部に息づいているのだと思う。

歴史にもしもがあったとして、1930年代半ばに発売されたリッケンバッカーによるエレクトリック・アップライト・ベース(コントラバスみたいな縦型の電化ベース)が、使い物になるクオリティだったら、こんなことにはならなかったんじゃないかとも、思う。先に言ったリュート属とヴィオール属がそれぞれ電化・バス化を果たすことができたかもしれないからだ。

コントラバスの電化→エレクトリック・アップライト・ベース
バスを奏でるエレクトリック・ギター→エレクトリック・ベース・ギター

これならすっきりしていて、わかりやすい。でも実際の歴史はそうはならなかった。レオ・フェンダーが作ったフェンダー・ベースがヒットして、コントラバスの電化もエレクトリックギターの低音化も請け負ってしまった。概念が濁ってしまったのだ。でもその濁りのおかげで、ジャコがこの世に出てきたんじゃないかなー、と僕は思っている。歴史がすっきり割り切れていたら、21世紀のポピュラーミュージックの低音部は、ぜんぜん違う姿をしていたのかもしれない。まあ、とりとめもない、妄想だけども。

おまけ:フェンダー・ベース以前のエレクトリック・ベースもろもろ

その1:エレクトリックギターの始祖、Paul Tutmarcが作ったエレクトリック・フィドル、1933年。これはまさにエレクトリック・アップライト・ベース。
http://www.guitar-list.com/sites/default/files/Paul-tutmarc.PNG

その2:Paul TutmarcがAudiovox社で出したエレクトリックフィドル(写真中)、1935年。こちらはソリッドボディでギター風の構えが想定されており、現代的なエレクトリックベースの要件を満たしている。
http://www.emma-music.com/site/medias/Paul-Tutmarc.jpg

その3:1936年のリッケンバッカーによるエレクトリック・アップライト・ベース。さすがリッケン、作りが粗い。
http://www.doublebassguide.com/wp/wp-content/uploads/2007/10/rickenbacker36.jpg

その4:ギブソンによるエレクトリック・アップライト・ベース、1938年。エレクトリック・ベース風のルックスだが、タテに構える。フレッテッドなのが斬新。
http://orgs.usd.edu/nmm/PluckedStrings/Guitars/Gibson/10474/GibsonUprightBass.html

追記:アンソニー・ジャクソンはある時期から、自分の楽器のことを6 strings electric bassとは呼ばなくなって、contrabass guitarと呼ぶようになった。そのコンセプトと奏法の変節について理由を考えるのはとても意味があることだと思う。