アンファン・テリブルという手垢にまみれた表現を、しかしそれを用いるしかなかろう恐るべき子供たちの最右翼であり、ここ10年の私的音楽史でもっとも大きな衝撃を私に与えたといっても過言ではない2人組、カメラ=万年筆の主催する「奇妙な山彦」というイベントに出向いた。

雑務に追われたせいで水道橋に着いた頃には開始時間をとうに1時間も過ぎており、もうすべてが終わっているのだ、すべてが手遅れの人生であった、せめて死くらいは手早く手にしてやろうというくらいの絶望的な気持ちで会場の扉を開けたのだが、静まり返ったそこではGreat3に加入したjanさんのか細い歌声が鳴らされはじめたばかりで、どうやらまだイベントは中盤のようだった。あとで聞いたのだが、僕が着く前には望くんがSkypeで俺様トークを1時間繰り広げるというすごいツッコミ甲斐のある時間が流れていたらしい。

コステロのカバー素晴らしかった。もちろんカメ万の曲も。そしてじゅんじゅんにバトンを渡して、じゅんじゅんが3曲、安定感ある! 優介はグランドピアノの譜面立てで側面からの視線を防ぎ、PAのスピーカーで正面からの視線を防ぎ、ほぼ観客から見えない陣取りを獲得して自分の音楽に没入していた。まったく主張しないくせにどこまで豊かなのか底知れないくらいうまくグランドを鳴らしていた。あんな風にピアノを鳴らせたらどれだけ楽しかろう。しかし優介は例のごとく、カラオケを鳴らしたらピアノに突っ伏せて起き上がらなくなってしまい、そのままライブを終わらせた。天才としか形容のしようがない。

終わって、清水くん、babiちゃん、あと名前失念してしまったゴメン、じゅんじゅんの職場の方などとお話をする。みなで優介愛をシェアしているので話が早くて楽しい。じゅんじゅんとbabiちゃんは、僕が江口ちょとやったミランダ・ジュライトークショーに来てくださっていたそうで、あのときは唐木さんの話で痛快な気分になったわ、みたいなことを言われて救われた気持ちになる。

独りになってからの帰り道は、気が重かった。いま計画中の僕のソロに優介と佐久間くんを誘ってしまっていて、引き受けてもらってしまい、つまり近い未来に僕はあんな尊敬している若い天才たちと音を出さなければならない。自分で言い出しておいて何だが、荷が重すぎる。そう考えたら、前の晩に書いた曲がひどく貧相なものに思えてきて、とてもじゃないけど聞かせられない気になってくる。しかしそういうことをもう何十年もやってきて埒があかなくなってしまっての現在なので、もう、ままよ、と投げるしかない。しかないのだ!うわー。