昼も昼から気もそぞろ。だって晩はギエムですもの。そんで現れたギエムはサービス満点。しゃべるし飛ぶし、日本語で冗談まで言う。いいのかそんなにくだけたことして(神様なのに)とこちらが心配になるほど。「聖なる怪物たち」は自己言及的なメタ要素を多分に含む、コンテンポラリーをさらにカジュアルにした演目だった。
ダンスにモノローグを挟んでいくサンドウィッチ形式で、カーンはインド古典を究めるうち芽生えた違和感について、ギエムはダンスへのモチベーション再獲得について、それぞれ生声で思うところを述べていく。台本はもちろんあって、ステージ脇の電光に日本語字幕も表示されるのだけれど、かなりフリーでくだけた語調。カーンはハゲに苦悩するし、ギエムは「チョットアブナイ」とかカタコトの日本語までしゃべってみせる。肩で息をしながらミネラルウォーターのペットボトルを受け渡しするシーンは、ちょっとやらせっぽかったけれど。
でもそんなサービス精神のすべてが、これっぽっちも鼻についたりしない。だってダンスがあまりに闊達だから。そりゃあんだけ踊れりゃいいわよ、多少の自己言及くらい何のことないわな。そしてそのダンスも得意技満載で、もう正直やりたい放題。なんだろ、カンパニーの練習後に興が乗って、トップダンサーふたりがディスカッションとダンスを深夜まで繰り広げているような、そんなたわむれを見ているようだった。
特筆すべきは生演奏のシュアさ。舞台上手にはインド的な音階で歌う女性ボーカルと、なんか民族っぽい金物をいっぱい並べた男性ボーカル、つまりエキゾな2人。下手にはチェロとバイオリンとパーカッション、つまりヨーロピアンな3人。これが完全に噛み合って、かつダンスともシンクロして、練度の高い演奏を見せた。でももう西欧文明と非西欧文明の邂逅、融合みたいなテーマは、フィーチュアしなくてもいいんじゃないかな。
ギエムは後ろをまとめて前がシャギーな姫カット。前回ボレロのときは迫力ありすぎてカーテンコールでもちょっと怖さが出てしまっていたんだけど、今回はちゃんと可愛らしかったです。バケモンだけどな。カーンはハゲで短躯で、でも踊り出すと冴えていて(それは非西欧的なマニューバに理由があると思う)、つまり中年の自分がどんな振る舞いをしたらいいのかというひとつのヒントをもらった気がする。
終演後はグランドセントラルのオイスターバーでカキ食って、それでやめときゃいいのに上機嫌に任せてアパ寄って飲んでしまった。お酒を飲んだの3、4カ月ぶりなので、酩酊して言わなきゃいいことを言った気がする。