今日も海は控える。びくびくして暮らす。よく晴れている。ちょっと日記にネガティブなこと書いちゃったのでダイジョブかダイジョブかという電話やメールが何本も入って申し訳なくなる。昔は毎日こんなんだったのにねえ、ここ(笑)。晩に散歩しながらメグキュと電話。「凹んでるのなんてとーっくにお見通しなわけよ。日記、最近長いもんね」。そうだったのか!!

相変わらずリョウタさんの日記が面白いので、ここに返歌めいたエピソードをひとつ。若き日の僕が、ヒッピー・ラスタ方面の人を決定的に信用しなくなったお話(ひょっとしたら前に書いたかもしれないけど、いいや、書いちゃえ)。高校2年の夏休みのある日、僕は国立駅のホームで、いつ来るとも知れぬ電車を半泣き面で待っていた。台風による豪雨めいた雨のおかげで、中央線が何時間も、ほんとに何時間も止まりやがったせいだ。半泣きのほうの理由は、ベンチに座る股に挟み込んだハードケース、中にはフェンダージャズベース66年、のはずだったんだけど、これがとんだニセモノだって判明したから、ということになるのだと思う。

ほんの数時間前、何ヶ月分だか貯め込んだバイト代を手に握りしめた僕は高円寺の楽器屋にいて、そのベースを自分のものにするやいなや、国立にとんぼ返りしていた。意気揚々と向かうは、とあるたまり場。みんなに自慢して、びっくりさせてやるのだ。でも乗り込んだ僕の顔は、30分もしないうちに泣き出しそうになっていたと思う。スゲエ、いいなあ、の声の中、Kさんが「なあカラキ、これ、シリアル見せてもらった?」見たよ。「いやボディのほう」見た。「ちょっと開けていい?」え、うん。フェンダーベースの年代考証について詳説はしないけど、とりあえずそいつは、ネックは確かに66年。でもボディは、たぶん70年代の、しかもコピーモデルのボディを、それっぽく(かすれたスタンプとか打って)偽装したものだった。

「カラキさ、これ返しておいでよ。俺も行ってやるから」。いいよ、ひとりで行く。もうくやしくてさ。それなりにジャズベの年代鑑別叩き込んどいたつもりなのに。あっさり騙されて。いい音だねーさすがオールドは、なんて浮かれちゃって(音は確かに悪くなかった・笑)。そういう悪質なフェイクをこさえた奴がいるということ。それを売る店! 騙される俺! 浮かれて自慢したりしてた俺! もうみんなみんな最悪で。しかもどしゃ降りの中駆け込んだ国立駅のホームでは、現在中央線は豪雨のため運行を停止しております、再開のめどは現在のところ・・・なんてアナウンス。輪をかけて最悪。へたり込んだベンチで30分、40分、電車は来ない。1時間が過ぎようとして、頭の中が呪詛と悔恨ではち切れんばかりになった頃、その男は現れた。「ヤァマーン! どしたのゲンちゃん、そんな浮かれない顔しちゃって」。

当時、たぶん今も、だろうけど、国立にはヒッピー/ラスタのコミュニティがあって、友達のオヤジがそんな人だったことから、僕も段々そこに顔を出するようになっていた。アクセサリーを街売りしたり、自然食レストランやってたり、六ヶ所村で反原発ライブをやったり、そんな人たち。中3とか高1とかだとさ、思うわけ、うちの親父は公務員でスーツで、でもこの人たちは何なんだ! 親の世代なのにロックでドレッドでフリーダム、すげえ! みたいなことを(そんでブカーっとね・笑)。そんな中のひとりで、割と僕のことを構ってくれてたラスタマンで○○というのがいたんだけど、けっこう色男でさ、バンドではボーカルで、腰までのドレッドで、まあいいや、そいつがひょいと現れたわけだ。どしゃ降りの国立駅ホームに。

「これからライブ? 重いのにハードケース偉いネ」いや、違うんだ○○、実はこれ、ダマされちゃってさ。これから突っ返しに行くところなの。ほら俺、66年買うって言ってたじゃん・・・。ひととおり話を聞いた○○は、大げさに何度もうなづきながら、かすれた声で、いま思い出してみるとずいぶん芝居がかった節回しで、こう言った。「そうか。それはとてもツラい経験だったネ。でもさ、ゲンちゃん。君にニセモノ売りつけた店員さんとか、そのニセモノ作ったどっかのクラフトマンを、恨んだりしちゃダメだよ。彼らが悪いんじゃない。彼らにそんな哀しいことをさせてしまう、このバビロンシステムを、僕らで変えていかなきゃいけないんだ!」

そこで、なんか俺、ハッと我に返ったね(笑)。凹んでたんでただうつむいて話聞いてたけど、心の中でははっきりとこう思った。ちょっと待てよ、オイ。俺、現実にダマされてんじゃん。30何万むしられてんじゃん。あいつら悪くねえの? あいつら責めねえで、そのバビロンなんちゃらのせいなわけだ。そんでそれを変えていく? 毎日ブカーっとかまして? それなんか違くねえか? あいつらは汚ねえ商売繰り返すだろうし、明日もいまの俺みたいに悲しい気持ちになる被害者が出現するかもしれないのに? おいおいおいおい、違うだろ。なんか彼に限らず彼らコミューン、どころかヒッピーカルチャーまでが一瞬のうちに腑抜けで不甲斐ないものにサーッと色褪せてしまって、それまでカッコイイ、とか心酔していた自分含め、なんか完全にバカバカしくなっちゃった。

結局その何十分か後に復旧した中央線に乗って、もう世界が前の日とはちょっと違って見えていた俺は(笑)、そのクソフェイクを売りつけやがった楽器店に乗り込み、ダマされた自分の無知など棚に上げて大声でそれをののしり、代金を取り返したあと店頭のギターを蹴っ飛ばして帰ってきた。もっと薙ぎ倒してくりゃよかったのに倒したのが数本だったのはひとえに俺の小ささだけど(笑)。ま、そういうわけで、えーとなんだ、バビロンシステムとかヅカっちが口にするのを聞くと、そりゃバンジーもしたくなるわな、と思うのでした。うわー今日も長くなっちゃった!(泣笑)。