昨日晩に仕事の電話が入り、恐ろしいことに引き受けてしまった。なんとしても朝のうちに済ませなければならない。もちろんそんなんすぐに終わるわけもなく、それどころか切符の手配だの住民票を取りに行くだのなんだので、時間はどんどん剥ぎ取られていく。せっかくの晴天も散歩どころではない。結局カタがついたのは3時過ぎ。列車はあきらめ、高速バスというものに乗ることに決める。っていうか、あーゴメン、なんで東京離れるのか書いてなかったわ。あのねー、合宿に行くんです。えーと、そのー、う、運転免許の!(笑)。いややっぱりほらー、平日タバタの車借りてサーフィン行きたいじゃん。それにいつも運転ばっかさせてんのやっぱ悪いし。そんで、俺ぜったい通いじゃ取れない自信あるのね。予約という行為がいかに苦手かは言うに及ばず、8割方まで終わったら安心して行かなくなりそうだし、日々の中で時間割けそうにない。

もひとつ大事なことを付け加えておくと、行き先に決めた教習所は海に面していて、宿舎の目の前が千倉というサーフポイントなのね。しかも、入所パンフに「来たれサーファー、毎日乗れます!」と書いてある(笑)。調べた限りでは近郊で唯一。なんとも都合のいい話じゃないか、話だけなら(笑)。というわけで、農閑期に入った頃合いを見て、エイヤと決めちゃったわけ。もうみんなに言われたよー。高校卒業したばっかのDQNに囲まれてシメられちゃうんじゃないかとか、いや彼らは年功序列だから牢名主になっちゃうんじゃないか、とか、仕事どうすんのーそれにアンタみたいなさびしがり屋が3日と東京離れられるわけがない、とか、アンタみたいなグーグリスト&ヤフオクっ子がブラウザなしで生きられるわけがない、とか。でもねー、もうそんなのみんなウェルカムだよ。バッチ来い。全面的に楽しそうじゃんかワハハハハ。いっちょするかい、エクソダス!(ぜったい違うー)

通常だと16日間くらいで修了するそうなのだが、運がいいのか悪いのか(余談だが4月に入ってから様々なことがらが必ずマシな方、快方に転がっている。妙な気持ちだ)、この時期だと連休を挟んでしまうので、23日間も家を空けることになった。仕事がひと段落ついたところで服やウェットスーツやもろもろをパッキングし、ガスの元栓を閉め、集合タップのスウィッチを落として回る。70リットル近いマンスミのバックパックを背負い、ボードケースを持ってみるとこれがちょっとした大荷物で、海行くんだか山行くんだかはっきりせんかい、という突っ込みを車内で受けそうだ。乗り継ぎもスムースに東京駅、初めて乗る高速バスは18:20発。乗客は10人もいない。見慣れた高速も視点が高くなるとまったく違った風景に見える。


うとうとしてたら海ほたるで休憩(これも初! すごいデッド・エンド・ストラクチュアっぷり)。後席の女の子が携帯で痴話喧嘩をはじめる。帰省するのかな、地元の彼氏と話しているんだけど、彼は完全に貞淑不安に陥っている様子で(ロンドンハーツの影響だと思う。あれは画期的だったが見るのにモラルを要すよね)、それに女の子がいちいち腹を立てては「なんでそんなこと言われなきゃなんないの、ありえない」と言う。君津あたりを過ぎた頃から街灯が減り、何十分も信号がなく、ロードノイズを優に圧倒するカエルの鳴き声が辺りを包みはじめる。2時間弱で千倉町役場前にとうちゃく。

夜のとばりは圧倒的に濃く、静かだ。通るクルマもない。おいおいこれ町の中心部だろー、と思うが、歩き始めるのに迷いはなかった。だって耳を澄ますと波の音聞こえるんだもん。5分もせずに海に出て、あとは浜沿いの道を歩く。満月の月明かりで照らし出された海面を写真に収めてみようとするが、バルブじゃブレブレになってしまっただろう。国道沿いのセブンイレブンで、いつもと同じ弁当の品揃えを見て苦笑する。しかしパンのラインナップはけっこう違うね。あとドリンク。野菜ジュースがないのでちょっと困る。さらに困るのはATMがなかったことだ。まあ倹約しましょうってことね、などと思いながら歩いていくと、ほどなく教習所が見えてきた。やや迷いつつも宿舎に到着、って真っ暗だよ。誰もいない。えー、俺だけー?!


おそるおそる忍び込んで、あらかじめ指定された部屋に入る。ははは、ユースホステルというか、刑務所だ(笑)。ひとりだからずいぶん楽だけど、ベッド4台あるってことは、ハイシーズンにはこの6畳に4人詰め込むんだ。すげえ商売だなあ。ま、なにはともあれ電源確保。ちゃんと三つ又タップ持ってきてたので、ノートと携帯のAC、あとデジカメの充電器をセットし、ブースめいたものを作る。服を取り出してハンガーに掛けていると、ドアの音、足音。ほどなく部屋のドア(ただの引き戸でカギは内からしか掛けられない)がノックされ、中年の方に寮内を案内してもらう。てっきり管理人の人だと思っていたら、あらら、教習生さんなのだった。Tさんとおっしゃるその45歳の方によると、先週まで18の子がふたりと、一昨日まで25、6の子がひとり(3人ともサーファーだったそうだ。ちなみにTさんも元サーファーでマリブに入っていたとか)いたそうだが、全員卒業してしまって俺らふたりだけとのこと。


さっそく6畳ほどの畳敷きにコタツとテレビが置かれた娯楽室に招かれ、歓迎の酒盛りとなる。「新人は28っつうからどんな半端モンが来るのか楽しみにしてた」なかなか良い読みだ(笑)。Tさんは元大型トラックの運転手なのだが、飲酒と違反と事故により免許を取り消され、復職のために取り直しに来ているのだという。寮内は禁酒とのお達しが出ているが、冷蔵庫を開ければ缶ビールが並んでおり、そんなことよりTさんは近所のフィリピンパブ帰りなのだった。ムービー携帯で撮ってきたというお気に入りのピーナちゃんの顔とおっぱいを小さなディスプレイで披露され、おごってやるからこれから行こう! ということになってしまったが、電話をすると生憎お店はもう閉店近くで、じゃあ今度な! ということになってお開き。いま、部屋に戻り、パイプ椅子に座って、iTunesにリップしてきたドルッティ・コラムを、隣室から漏れ聞こえてくるいびきとともに聞きながらこれを打っている。これから3週間、合宿免許の現場から付けていく日記を、主に草川さんに捧げます。