風が強い日が3日続いた。風が塵を動かすのにつられて、僕もゴソゴソと動き出す。ベランダにデッキブラシをかけ、机の上を珍しく片づけ、もらった冷蔵庫をピカピカにし、溜まっていた封書関係を投函した。僕は郵便がとことん苦手で、よく色んなものを出しそびれる。郵便は素材を用意して内容を書き込み、切手を買って貼って出しに行く、というプロセスのすべてを端折らずに踏まないと完了しない仕組みになっているからだ。なんとかマスターしたいので、僕が郵便と仲良くできるようになるまでは民営化は踏みとどまってもらいたい。

いま、コミケに向けたsawadaspecialくん主宰の同人誌の記事を書いているところだ。宇宙世紀の世界におけるタウン誌、なのだが、この雑誌の雑誌内雑誌のような位置づけでアナ部のページがあり、この一部を担っている。全体からすれば非常に微々たるパートであり、別働隊のような感じなので他の人のことはまったくわからない。おかげで、非常に気ままに楽しくやらせてもらっている。

僕は仕事を始めたのが割と早く、しかも文化芸術方面とは縁遠い10代を過ごしていたので、同人とかファンジンとかフリペといったインディなメディア一切を作った経験がなく、そういうバックグラウンドを持っている人に対して憧れさえ抱いていたのだけれど、えーと、これはやってみるとエライ楽しいもんだな。もう夢中といっていいほど力を割いた。記事を作るのに友人数人の挺身的な協力(ひどいことをお願いしてしまった。承諾してくれたみなさんに深謝する)までお願いしたし、経費も使えないだろうからタクシーで動くところをチャリにも乗ったし、撮影もアポ入れも編集も自分でやって、なにより仕事の優先順位を繰り替えて(Kさんゴメン)まで取り組んだ。

まあ仕事では考えられない献身っぷりだ。そもそもギャラなんてないので、労働対単価なんて考えずに事に当たれる。そしてひとつもイヤではない。前に、僕は毎朝、釣りに出かける朝のように目覚めたい、と書いたことがあったけれど、まさにそんな感じだ。この楽しみを発見してしまったことは非常に困った事態で、要するに仕事のエンジョイ具合が相対的に下がってしまい、そのなんつうか、えーと、ちょっとダルくなっちゃってたいへんマズイ。かといって家賃は毎月やってくるので同人ばっか作ってるわけにもいかないだろうし、商業誌でこれだけの自由度とモチベーションを確保できる自信もない。

こんなひどく月並みな問題に辿り着けたのはたいへんラッキーなことだと思う。これまで僕は、別に作りたい雑誌なんてない、ただ誰かのオファーに応えられることはうれしいから、依頼されればできることはさせていただく、という一切合切がパッシブなスタンスですべてをこなしてきた。しかし、このスタイルに疲弊がきていたのも正直なところだ。必要な物事は必要なときに必ず向こうからやってきてくれる。僕は仕事に対する姿勢を変えるべきタイミングにあるんだと思う。ようやく人並みになれるかもしれない、と少し思っている。

晩にリョウタさん来宅。マイタケと茄子が余っていたので、キャベツと合わせて甜麺醤で回鍋肉風に炒め、あと近所の揚げ物屋のミラクルがかったコロッケを買ってきてふたりで食べる。僕が料理で失敗するときはたいてい火を通しすぎてしまうケースで、この日もご多分に洩れず茄子をべちゃっとさせてしまったのだが、それでもリョウタさんは旨い旨いと食べるので少しいい気分になる。致命的だったのは、冷蔵庫が長いことなかったためウスターソースを切らせていたことだが、これもマジカル衣に救われて事なきを得た。少し料理の腕がなまってしまっている。仕込んでくれたキッチンの方々に申し訳ないのでしばらくリハビリ期間として心がけたい。