テレビを点けて仕事していると、「見えないものは見ない」というセリフが耳に飛び込んできて、どきりとして画面に目をやる。梅宮アンナだった。視力の話をしているらしい。0.5くらいの視力しかないけれど、別に困ったことはないという。なぜなら──という話の流れだ。もう一人のタレントの女の子はとても無茶な物言いとして笑い飛ばしていたけれど、僕はこの、たぶん感覚的に会得したんであろう割り切りについて捨て置くことができない。

先日受けた眼の手術の副作用として、いま僕は裸眼で1.0くらい見えている。1メートル以上離れたものなら、という条件付きだけど。手術前、この副作用の話がひどく魅力的な響きを持っていたことは否めない。裸眼で1.0! メガネの助けを借りずになんでも見える、あの幼少時のくっきりはっきりの世界カンバック。そして僕の視力は実際に回復したわけなんだけど、結果として僕は、自分の欲深さと愚かさを知った。

たとえばクルマのナンバープレート。50メートルも離れていれば読めやしない。0.1の視力と較べれば雲泥の差だけど、とにかく読めやしない。視力の話となるとよく引き合いに出されるサンコンだって、200メートルも離れたら読めないだろう。見えるものと見えないもの、なんておおげさ話ではなくて、人の視力には限界があって、どれだけ視力があってもうまく捉えることができない領域が必ずある。たったそれだけのことを知るのに、僕は視力の低下と劇的な回復というプロセスを必要としたわけで、この愚かしさは例えるべくもない。この話つづく。