ヴァーチャルリアリティーは悪だから

麻利子さんからハンケチが届く。「Gの縫い取りを」とのお話しだったのが、猪熊弦一郎のサインになぞらえて「guen(もちろんeにはアクサン)」って刺繍を入れてくださった。嬉しかった。あんな超モダンおじいちゃんとおそろいのつづりなんて、ちょっとおこがましいけど。きょうはこれをポケットに入れて出かけよう。

渋谷、四谷寄って外苑前、いったん帰宅して1時半からまた打ち合わせ。今度職業を聞かれたら、打ち合わせ屋と答えよう。地下鉄のなかで気分が悪くなる。お酒をちょっと飲んだ。ひさしぶりに。

ちょっと日記を休もうかとも思う。タイトルは曾野綾子の口から出たものらしいけど。すっげーなあ。さておきウェブの弱さを思いもよらぬところで、つまりはこの部屋の中でなんだけど、思い知らされてみたり。もろもろのいきさつもあって、いまこの部屋では会話が極端に減っしまっている。僕と彼女の生活時間帯も違う。帰ってきて、恋人の日記を読むことが彼女の一日と、そして思いの断片を知るひとつの手だてになってしまった気がする。逆もまた、しかりだ。おのずと日記の内容も同居人へのアピールの意味合いを帯びはじめる。

でもそんなの、思いきりヘンだよ。よりによって他人に読まれるところで、面と向かって話せばいいことを打ち明けるなんておかしすぎる。ウェブのインタラクティビティなんて嘘っぱちだ。ここでは目に見える反応がありゃしないから、人が嫌な気分になることも、普通じゃ言えないことも、痛くも痒くもなく書けてしまう。のぞき見みたいな探り合いはもうこりごり。書きっぱなしワンウェイのところで共感や反感を得たって、暮らしには役立ちゃしない。もっと別のことを書くか、いっそやめてしまおう。ふつうに面と向かって話そう。相手の顔を見ながら話そう。

深夜、マンガの擬音が幾重にも重なって取り囲んでくるイメージに悩まされる。ここのところずっと続く、曇り空のせいなんだと思う。