宿題、宿題、終わらない。イヤトレはスコット先生カンバック。5拍子とコーラスと中間試験について。ハーモニーはブルースとメロディックマニピュレーション。風のような速さで教科書が進んでいく。がんばんないと落ちこぼれるマン。

熱で朦朧としてるのだが、日本で治療中だった箇所がやばくなってきたので歯医者に行きたくて、小雪ぱらつくなか、学校指定のディスカウントが効く歯医者に行ってみることにする。事前にいくら電話してもつながらない。着いてわかった、リフォームしてやがった。大工に聞いたらあと2週間から20日かかるとか。マジかよ。すごい落ち込む。

オバマケア以降、学生は学校が指定した健康保険に強制加入させられる。4ヶ月で13万円くらい(念のため言うがこれは学割料金で、この国の健康保険としては安い)。自分で別の保険に入ってる人は申告して免除してもらう。そして歯科が適用外なのだが、この歯科保険が保険料クソ高い上に、加入後半年は使えないとか8000円以内の治療は使えないとか、あともっと細かい除外ルールが湧いてきて適用外になりがちなため、最近人気がないらしい。

代わりにポピュラリティを得てきているのがデンタル・ディスカウント・プランで、歯科保険のように手厚くはないが加入費が安く、トータルで見るとお得かも、というやつだ。そして学校の健康保険にはこのデンタルディスカウントがパックされているのだった。だいたい3割引きから5割引きになるが、使える歯医者がなんと、ボストン市内では1軒だけ。そしてそれが改装中。ショックのあまりiPhoneを落として割った。

何度見直しても割れている。しかもきょうは別のアンサンブルのクラスにトラを頼まれていて、雪と熱のなか重いエレクトリックアップライトを担いできたのに、ドタキャンになった。落ち込んだついでにiPhoneが直ってたりしないかと思ったのだが、そういうことはなかった。とぼとぼ帰宅して、奥さんとNBA見に行く約束をしていたので、もうなんかヤケな気持ちでスタジアムに向かう。

アリウープを生で見てみたかったのだが、見るには見たもののあまりに遠くてフーンってくらいな盛り上がりしか得られず、あとは熱のせいもあって寝てしまった。寝てしまった理由は大きくふたつあって、ひとつにはチーム応援に感情がまったく動かなかったことがある。奥さん(ひねくれず育った人)なんかは地元ボストンのセルティックスをいきなりワーワー応援し始めたのだが、友達でも知り合いでもないし、他人がバスケしてんなーとしか思えなかった。

スタジアムを盛り上げんとする演出が耐えがたい気持ち悪さだったこともある。ゲームが止まるたびに吐き気を催すほどダサいロックが流れる。合唱。そしてスタジアムの客席をカメラが抜く。巨大ビジョンに映し出された人間は神の恩寵でも得られたかのようにバカ盛り上がりする。スタジアムじゅうの観客が次は自分を映してもらえないかと、どこに潜むとも知れない望遠カメラの神様に選ばれたくてオーバーアクションでアピールする。言いたかないが、あなたが懇願しているのはインカムを付けたスイッチャーだ。

たまに天井からパラシュート付きのTシャツが降ってくる。スマホも降ってくる。みんな自分のところに降ってこないかとワクワクしてアピールする。おれの大嫌いな、ビンゴ大会に似ている。モノがもらえるのはいいことだけど、それを待望していることを剥き出しにするのは品がないと思う。カメラに抜かれたりモノが降ってくるのを望んで我ここにありとアピールするのは、自分のことを家畜化するのに等しい。そんな俺でさえ自分にカメラが向かないか、モノが降ってこないかソワソワくらいはする。音と光とを駆使して、それほどに強力な、人を家畜化させる演出と力学が働いているのだ。それが気持ち悪くて、寝てしまった。

タイムアウト時にチームが組む円陣を映し出すビデオカメラはいまどきでも有線で、タイムアウトのたびカメアシの子がケーブルをさばき、試合が再開すると素早く八の字(次使うとき絡まずほどけるようにするための特殊な巻き方)で巻き取っていく。何十回となく。そのカメアシの子は知り合いでも友達でもないが、その子のことだけはずっと心の中で応援していた。こんな何万人が毎晩盛り上がってるのに自分はなんてつまらないサブカルおじさんなのかと、落ち込みながら満員のグリーンラインで帰宅した。