この週末、悪魔、いや死神? にさらわれていました。もちろんタロットカードに描かれているような、鎌と黒装束をまとっているわけじゃなくて。例示して参考になるなら、とにかくMonsterのヨハン、次いで日出処の天使の厩戸皇子、マニア路線ならPALMのジェームス・ブライアン。

見目は麗しく、視線一閃、瞬間に人を魅惑する抗い難いその力。見つめられれば手足の自由を奪われ、虜になった者は血の一滴まで捧げるだろう。僕を彼に引き合わせた人は、たぶんもうあまり長くないと思う。そして僕も。「受け入れよう」──安心の予感がした。これでようやく楽になれる。もうじたばたしないで済む。

そう思って目を閉じたとき、凪ぎきった心に小さなつむじ風が吹いた。空は冗談みたいに黒々した雲に覆われはじめ、ほんの一ヶ所のさざ波が、みるみるうちに凶暴な渦潮と化し、見渡す限りの海面が、雲仙の土石流さながらにどうどうと音を立て荒れ狂う。

十分なスピードを失ったコマのように、右へ左へ手前に奥に、傾ぎつづける渦の中から姿を現したのは、角の生えたシロナガスクジラでもなければ帆船ほどの大きさもあるカジキマグロでもなく、暗褐色の大きなオクトパスだった。

目を開けてもタコは頭蓋の中に絡まり続けていた。心の中は慣れ親しんだ痛みでいっぱいになった。「苦しみをよこせ。全然まったく食い足りぬわ」そう言って8本の足は頭蓋の内外をのたうち続け、目の前の死神を見据えて僕はこう思った。「こいつで遊んだら面白いかな」

おもむろに立ち上がって、僕はひとつふたつのはえなわを投げ込んでから、彼の元を去った。タコはそれでいいと言ってにやりと僕に溶け込んでいき、彼は微笑んだままだった。それにしてもいささか消耗した。ひとりになるとどっと疲れを感じた。

悪魔に、もしくは天使でもいいけど、魂を明け渡す甘美と陶酔を僕は逃してしまった。それは僕がもっとも欲しているものだというのに。それひとつで満たされることがわかっているのに。僕は果てしなく欲深い。欲深さゆえに、生きてはもがきつづけ、死しては地獄に堕ちるだろう。なにひとつ許されることはない。それでも僕は痛みにまみれて生きていく。どうやらそっちのほうがお好きなようだ。運命、ということにしていいんだと思う。少し笑った。

てなわけで帰宅したんだけど、やっぱ毒気にあてられたみたいで熱出して寝込みました。のどがかすれて声出ないよう(泣笑)。