しっかり者で音に聞くうちの奥さんが、生まれて初めてスマホを落としたと慌てている。紛失モードにして私の番号を表示させてみたが、日本じゃあるまいし、まあ戻っては来まい。早々にあきらめてカードを止めたのだが、翌朝電話がかかってきて、iPhoneを拾ったので取りに来いと言う。しかも男は「スコシ日本語シャベレマス」と言う。

海外での「日本語シャベレマス」は地雷原でもあるので身構えたが、その取りに来いという場所を聞くと、スケートショップだと言うのですっかり拍子抜けしてしまった。スケーターかあ。なら、おかしなことにはなるまいよ。奥さんはノコノコ出かけていって親父狩りにでも遭わないかと心配しているのだが、スケーターだし、そんな悪いエリアでもないし、午前中だし、まったく心配ない。と言い残して家を出た。当然、Vansのオールドスクールを履いて。

しかして着いてみれば、そこはショップ併設の屋内型スケートスクールで、店内はキッズまみれ。電話をくれたケヴィンさんはこのスクールの運営者で奥さんが日本人だという。聞けば、コーリーというインストラクターの彼女が道端に打ち棄てられていたiPhoneを拾って、スクリーンに日本語が表示されていたのでケヴィンのところに持って来たのだった。

もうひとつには表示されていた私の番号が857で始まり、これはボストンの市外局番なのだが、ケヴィンとコーリーはボストン出身なのでホーミーじゃんってことでなおさら連絡しなきゃってことになったらしい。「ところで俺もスケートしてたんだ、もう何年もやってないけど」と言うと、「入ってきたとき雰囲気でわかったよ。Vans履いてるし」ダヨネー。

しかも話せばコーリーはトラックメイカーでDJもしているという。なんだか色んなエレメントが噛み合った不思議な日になった。そういうわけで水曜の晩、スケートスクールに通っている。ロベルトという46歳の空手家がクラスメイトだ。まだまったく取り戻せないし膝も痛むけど、まあいい、ゆっくりやろう。ほんとは海にも入りたいけど、それにはちゃんとトレーニングしないとだな。