今日と明日の日記は柳樂っちのnoteへのアンサーです。よかったら最初に彼の記事を読んでみてください。

なぜバークリーに世界中から生徒が集まってくるのか、なぜ留学生率が3割以上まで高いのか。身も蓋もないことを言えば、それは経営サイドがそう企図しているからだ。それを具現化させるために、さまざまな施策が打たれ、実際に機能している。いま学期の真ん中に設けられた1週間休みの最中なので、少し遠回りになるけどその辺りを書いてみたいと思う。

前提として、この学校は音楽大学を名乗ってるけど、実態としては職業訓練校といったほうが近いことをまず述べておきたい。たとえば近所にあるボストンコンサルバトリーとかニューイングランド音楽院とかは、クラシックメインってこともあるけど日本の音大にもっと近くて、研究とかアカデミックって言葉が似合う雰囲気がある。比してバークリーは専門学校や予備校みたいで、プラグマティックで現場主義、履歴書の書き方とかオーディション突破法みたいな講座まである。


そんな学校がどんなモチベーションで生徒を集めているかといえば、2つのレイヤーで夢を見せて、生徒を、父兄を誘引していると思う。ひとつはグラミー受賞者を頂点にする綺羅星のごとき卒業生たちで、この学校はこんな音楽家を多数輩出している(のだから自分もそうなれるかも)という華やかな方向。もうひとつは、とにかく何らかの仕事にあり就けそうなくらいには仕上げてもらえそう、という現実的なレイヤー。このふたつが高次にないまぜとなって、多くの志望者を集め続けている。

学校側としては求心力を保つため、このふたつをある程度のレベルで体現し続けなければならない。まずは華やかサイドのほうを考えてみよう。こっちの水準を保つには、天才の卵をたくさん集めることが必要条件だ。どうやって集めるかというと第一にはスカラシップで、特にフルスカラの子たちは、高校生の時点でもうプロだったり玄人はだしだったりして、それが特定の先生に師事したり、業界に顔を売るためにやってくる。

彼らの演奏を聞くとすっかりやる気が失せるし、学校いらねえだろくらいの気持ちになるんだが、それはさておき、その卵を集める際に効いてくる要素のひとつが国際化で、当然ながらアメリカだけより世界じゅうから集めたほうが分母が大きく取れて、質量ともに向上が望めるというものだ。


国際化を図るためにどんな施作が打たれているかというと、いちばんは受験、つまり入口の工夫だと思う。バークリーは出願がオンラインでほぼ完結するうえ、世界65都市で入試(オーディション)が行われるため、留学生にとっては他校と比してめちゃくちゃ利便性が高く設計されている。オーディションチームを世界中に派遣する費用を考えるとぞっとするが、それでもやるだけの意義があるという証左であろう。

加えてBIN校といって、基礎教養2年を母国で、専門教育2年をボストンで学び、結果バークリーの卒業証書が得られるという提携校が世界に19校あり、これも国際化の一端を担っている。基礎を母国語でがっちりやったあとこっちに来れるのは、滞米期間が短くなるかわりに戸惑いが少なくて合理的だなと思う。

こういった仕組みは世界中から天才の卵を集めることに寄与すると同時に、高い学費を払ってくれる一般生徒を安定して獲得しつづけられる、というインカムの面でも大いに効いてくる。やっぱり就職できるかも危うい音大に、医大なみの学費を払って通わせられる裕福な家庭は、アメリカだけより世界じゅうから集めたほうが底堅いというものだ。

集めた学費を、学校はおもに3つのことに再投資しているように見える。スカラシップ、豪華な講師陣、なによりハードソフト両面でのインフラだ。そのいずれもが評判を呼び、ふたたび天才の卵たちを世界中から引き寄せる。集まった子たちはこのボストンというよくわかんない片田舎で、互いを意識して切磋琢磨したりしながら、グラミーへの道を……歩むわけでもないのだ、これが。明日につづく。